亜ヒ酸(読み)あひさん(その他表記)arsenious acid

改訂新版 世界大百科事典 「亜ヒ酸」の意味・わかりやすい解説

亜ヒ(砒)酸 (あひさん)
arsenious acid

三酸化二ヒ素As2O3を水に溶かしたときに存在すると考えられる酸。化学式H3AsO3,HAsO2などであらわされるが,遊離状態では得られていない。弱酸であるが両性示し塩基としても働く。酸解離定数Ka=6×10⁻6(HAsO2⇄H⁺+AsO2⁻),塩基解離定数Kb=10⁻14(AsO(OH)⇄AsO⁺+OH⁻)。中性および微酸性水溶液は安定であるが,アルカリ性水溶液では空気により酸化されてヒ酸となりやすい。毒性が強いので取扱いには注意を要する。三酸化二ヒ素As2O3のことを俗に亜ヒ酸ということがある。
酸化ヒ素

メタ亜ヒ酸塩MIAsO2が最も普通に知られ,オルト亜ヒ酸塩MI3AsO3のほかにMI4As2O5など各種の組成のものが知られている。水酸化アルカリ水溶液に三酸化二ヒ素を溶かして得られるNa3AsO3,K3AsO3,KAsO2・HAsO2,(NH4)H2AsO3などのアルカリ金属塩は水に溶ける無色結晶その他の塩,たとえばCa3(AsO32,Ag3AsO3(黄色),Co2As2O5赤色),TlAsO2,Cu3(AsO32(暗黄緑色)などは水に難溶である。
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化学辞典 第2版 「亜ヒ酸」の解説

亜ヒ酸(塩)
アヒサン
arsenious acid(arsenite)

酸:H3AsO3(125.94).三酸化二ヒ素As2O3を亜ヒ酸ということがあるが俗称であり誤りである.三酸化二ヒ素の水溶液中に存在するとされる酸であるが単離されていない.三塩基酸で,水溶液は弱酸性を示す.K1 8×10-10K2 1×10-12K3 4×10-14.酸性水溶液中には三角すい型のAs(OH)3が存在する.酸性水溶液に硫化水素を通じると硫化ヒ素(Ⅲ)As2S3を沈殿する.この硫化物はアルカリ水溶液に溶けて,チオ亜ヒ酸塩(トリチオヒ(Ⅲ)酸塩)になる.空気中では安定であるが,還元剤としてはたらく.亜ヒ酸はまた各種のAs(OR)3型のエステルをつくる(R = CH3,C2H5,C6H5など).有毒. 
塩:M3AsO3型のオルト塩のほか,MAsO2型(メタ塩),M4As2O5,M6As4O9型などが知られている.[AsO2]は三角すい型のAsO3が,2個のO原子をそれぞれ両側のAsO3と共有してつながった鎖状構造である.[As2O5] は[O2-As-O-As-O2]型二量体構造である.市販のナトリウム塩はNaAsO2(メタ塩)で,防腐剤,染色用,殺虫剤などに用いられる.カリウム塩KH(AsO2)2は,医薬,分析用試薬などに用いられるほか,鏡の製造で銀を還元析出させるのに利用される.銅塩CuHAsO3顔料殺虫剤として用いられる.有毒.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「亜ヒ酸」の意味・わかりやすい解説

亜ヒ酸
あひさん
arsenious acid

三酸化二ヒ素As2O3を水に溶かしたとき(20℃の水100ミリリットルに2.0グラムまで溶ける)生成するとされる酸H3AsO3ホウ酸と同じ程度の弱酸。亜ヒ酸塩は多く知られているが、遊離の酸は得られていない。塩酸酸性溶液から硫化水素によって黄色の硫化ヒ素As2S3を沈殿し、アンモニアを加えると亜ヒ酸塩となって溶解する。この反応は亜ヒ酸イオンの定性分析に用いられる。酸性溶液では安定であるが、アルカリ性では酸化されやすくなる。弱アルカリ性溶液でヨウ素によって定量的にヒ酸に酸化されるので定量分析に用いられる。有毒。三酸化二ヒ素を無水亜ヒ酸と俗称することがある。またさらにこれを単に亜ヒ酸とよぶことがあり、日本薬局方でも亜ヒ酸としてAs2O3>99.5%と規定してある。ヒ素化合物として農薬の原料となるほか、ガラスの色消しや、変質剤、補血剤などとして医薬品に用いられる。猛毒で致死量は0.1グラムとされているが、活性炭やコロイド状の鉄などに吸着されるので、これらが解毒剤として用いられる。

[守永健一・中原勝儼]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「亜ヒ酸」の意味・わかりやすい解説

亜ヒ酸
あヒさん
arsenious acid

H3AsO3酸化ヒ素を水に溶かしたとき水溶液中に存在すると考えられる酸のことで,その塩は知られているが,酸そのものは得られていない。また酸化ヒ素 (III) As2O3 の俗称として用いられることがある。

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百科事典マイペディア 「亜ヒ酸」の意味・わかりやすい解説

亜ヒ(砒)酸【あひさん】

三酸化二ヒ素As2O3を水に溶かしたとき,HAsO2またはH3AsO3として存在すると考えられる無色の弱酸。三酸化二ヒ素そのものを亜ヒ酸ということもある。猛毒,致死量60mg。医薬品(腐食剤,強壮剤),防腐剤,殺虫・殺鼠(さっそ)剤。

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栄養・生化学辞典 「亜ヒ酸」の解説

亜ヒ酸

 AsH3O3 (mw125.93).H3AsO3.酸化ヒ素の水和物.

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