酸化ヒ素(読み)さんかひそ(英語表記)arsenic oxide

日本大百科全書(ニッポニカ) 「酸化ヒ素」の意味・わかりやすい解説

酸化ヒ素
さんかひそ
arsenic oxide

ヒ素酸素化合物。ヒ素の酸化状態により次のものが知られる。

(1)酸化ヒ素(Ⅲ) 三酸化二ヒ素ともいう。ヒ素と酸素の直接結合により得られる。常温で安定な立方晶系の結晶は、221℃で単斜晶系に転移する。水には溶けにくいが、両性酸化物で酸にもアルカリにも溶ける。水溶液では亜ヒ酸となる。有毒。

(2)酸化ヒ素(Ⅴ) 五酸化二ヒ素ともいう。ヒ素と酸素の直接結合によっては得られず、金属ヒ素または酸化ヒ素(Ⅲ)を濃硝酸で酸化して得られるヒ酸水和物を注意して脱水してつくる。白色定形粉末。潮解性。熱すると酸素を失って三酸化二ヒ素になる。水に溶けてヒ酸を生じ、アルカリと作用してヒ酸塩をつくる。酸化ヒ素(Ⅲ)に比べ毒性は弱く、遅効性である。水溶液からはAs2O5nH2O(n=1、2、3、4)などが得られる。As2O3とAs2O5の当量混合物を350℃に熱すると無色ガラス状物質としてAs2O4が得られる。

[守永健一・中原勝儼]


酸化ヒ素(データノート)
さんかひそでーたのーと

酸化ヒ素(Ⅴ)
  As2O5
 式量  229.8
 融点  ―
 沸点  ―
 比重  4.09
 分解点 315℃

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「酸化ヒ素」の意味・わかりやすい解説

酸化ヒ素
さんかヒそ
arsenic oxide

(1) 酸化ヒ素 (III) ,三酸化ヒ素  As2O3(As4O6) 。酸化第一ヒ素,三酸化二ヒ素,無水亜ヒ酸ともいう。俗称亜ヒ酸。天然産ヒ石,粉末ヒ石,炉煙,毒餌,鼠毒,蒸皮,毒粉,ヒ霜,譽石などともいわれ,1世紀頃から白ヒとして知られていた。白色ないし無色透明のガラス状無定形塊状物質か結晶性白色粉末で存在する。立方晶系,単斜晶系,無定形の間で多形現象を示す。昇華性。融点は立方晶系 275℃,単斜晶系 315℃,沸点 465℃。猛毒冷水には溶けにくいが,希水酸化ナトリウム溶液には亜ヒ酸ナトリウムとなって溶け,希塩酸には三塩化ヒ素となって溶ける。ヒ素化合物の原料であり,ガラス,エナメル,除草剤などの製造に使われる。獣皮保存剤,殺虫・殺鼠剤,媒染剤としても用いられる。
(2) 酸化ヒ素 (V) ,五酸化ヒ素  As2O5 。俗称ヒ酸。ヒ酸 H3AsO4 を加熱脱水するとき生成。無定形塊状ないし粉末。有毒。水によく溶け,本来の意味でのヒ酸を生じる。殺虫剤,除草剤,木材保存剤,ガラスの着色などに使用される。

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