わが国の場合、深夜業とは、労働基準法(昭和22年法律49号)によって定められた、午後10時から午前5時までの間の労働をいい、この時間帯においては、原則として女性と18歳未満の年少者の就業は禁止されていた(61条、旧64条の3)。しかし、後述のように女性については、1997年(平成9)に、妊産婦を除いて深夜業の禁止規定が撤廃された(現64条の3、平成9年法律92号による)。
夜間には休養や睡眠をとるという人間の自然的、生理的な条件を無視した深夜業は、あらゆる労働者の健康に有害であるが、とりわけ母性保護の必要な女性や、成長途上の年少者に与える影響は深刻である。このため、ILO(国際労働機関)は、早くも1919年の第1回総会において、「夜間における婦人使用に関する条約」(ILO条約第4号)と、「工業に使用される年少者の深夜業に関する条約」(ILO条約第5号)を採択した。この両条約は第二次世界大戦後の48年に改正され、女性を規定した第89号条約と年少者を規定した第90号条約は、わが国の規定よりも長い午後10時より午前7時の間を深夜業とし、その規制を強化した。
わが国においては、第二次世界大戦前、おもに繊維産業を中心に12時間二交替制による女性の深夜業が行われ、有名な細井和喜蔵(わきぞう)の『女工哀史』(1925)によって明らかにされているように、女性労働者は劣悪な労働環境とも結合して悲惨な状況に置かれていた。1911年(明治44)に成立した工場法は、女性と16歳未満の年少者の深夜業を禁止したが、紡績資本家の激しい反対のために、その実施は長く延期され、それが施行されるようになるのは29年(昭和4)になってからであった。
労働基準法によれば、満18歳以上の男性労働者は深夜業の規制をいっさい受けないが、深夜業に就労した場合、使用者は通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払わなければならない(37条)。しかし、深夜業に関してもわが国の労働基準法は多くの例外を認めてきた。第一に、交替制によって使用される満16歳以上の男性については、深夜業は禁止されない。第二に、災害その他の理由で臨時の作業を行う場合である。第三に、特殊な業種や女性の健康にあまり有害でない業種は深夜業が認められている。前者では、農林、保健衛生、料理・飲食店、電話の事業などが、後者では、航空機の客室乗務員、映画・放送関係業務などが主要なものである。さらに男女雇用機会均等法の成立(1985)によって深夜業禁止の除外を受ける女性の範囲は著しく拡大された(改正労働基準法、1986年4月施行)。
その後、深夜業を禁止されていた女性労働者については、1997年の男女雇用機会均等法改正(99年より施行)に伴い、労働基準法の女子保護規定が撤廃され、妊産婦を除いて、深夜業についての規制が解消された。
また、1997年の育児・介護休業法改正で、育児や介護を行う労働者については、男女を問わず、深夜業を制限する制度が設けられている。
[湯浅良雄]
労働者の心身の負担が大きいため禁止・規制・特別の保護を必要とする時間帯の労働。時間外労働(残業)が長引いた際および交替制勤務において深夜業が問題となる。労働基準法では午後10時~午前5時を深夜として,25%の割増賃金支払義務や年少者と女子の就業禁止(10時半終業の交替制は可)を定めている。(〈児童労働・年少労働〉および〈女子労働〉の項参照)。ILO89号条約では,午後10時~午前7時の間の継続した7時間を含む継続した11時間を深夜として,女子の就業を原則的に禁止している(90号条約では夜間の定義をより広げたうえで年少者の夜間労働を禁止)。
深夜業の継続は,実験室内の昼夜逆転や東西旅行者の時差ぼけと違って,生体内のほぼ1日を周期とする機能変動circadian rhythmを完全には逆転させない。このリズムの乱れが,睡眠・胃腸障害,体重減少,貧血,神経・母性機能障害の原因となり,健康破壊や労働能力喪失を招く。
また社会的・文化的生活へのマイナスの影響も大きい。たとえば,家族との交流への阻害によって〈結婚が既に緊張状態のもとにおかれているときには,交替制はそれを破壊する方向に導く可能性がある〉(F. ツバイク)。
戦後資本主義の〈高度成長〉から今日に至る経済過程は,一方で技術革新に伴う固定設備投資の早期償却をはかるために操業時間の延長による深夜労働の拡大を招いた。他方,婦人労働者の増大が男女平等の要求を高め,そのなかで深夜業禁止などの婦人保護を検討し直す必要が唱えられる傾向も生まれた。かくて深夜労働をめぐる提言や報告が各国でまた国際的な機関で行われることとなった。
日本産業衛生学会交代勤務委員会の〈夜勤・交代勤務に関する意見書〉(1978)は,〈深夜業と交代制勤務の導入自体を法律によって規制すべきである〉〈とりわけ,高価な設備の減価償却や経営効率などに関連した経済的理由による交代制の導入は,禁止されるべきである〉〈深夜業・交代勤務の制限は男女ともにきびしく措置されなければならない〉と述べ,交代勤務条件改善の一定基準確保がないかぎり婦人深夜業の現行の規制を〈単に緩和することは当をえていない〉としている。とはいえ,日本の経済界やその周辺では〈夜となく昼となく働く勤勉さ〉が日本経済を支えているとの考えが強く,男女雇用機会均等法案(労働省作成,1984年5月。86年4月より施行)には,専門職,管理職,食品加工,タクシーなどでの女子深夜業禁止の緩和などが盛り込まれた。
執筆者:下山 房雄
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