日本大百科全書(ニッポニカ) 「交通地理学」の意味・わかりやすい解説
交通地理学
こうつうちりがく
地理学の一部門で、交通現象を具体的な地域との関連で取り扱う学問体系。19世紀中葉、ドイツの地理学者J・G・コールJohann Georg Kohl(1808―1878)によって、交通路の形態を集落、地形との関連で論じたのが交通地理学の始まりとされている。1930年代までの交通地理学には、一つの地域における交通網や交通施設の立地を環境との関連で説明するモノグラフが多く、交通形態の分布や交通集落の構造などの研究も行われていた。第二次世界大戦後は、都市化や、地域開発における交通の重要性が論じられ、地域結合の強さを測る指標として、交通流の方向、量、密度などの分析が行われて、交通圏(交通流を指標として設定された都市や市場などの勢力圏)や、交通の型の類型化などがなされてきた。現代の交通地理学には大別して次の二つの研究傾向が含まれる。
(1)交通現象を具体的な地域の自然的、社会的環境との関連で総合的に分析する立場。とくに地域の変容のなかで、経済、制度、政策、技術などの機能を評価しつつ、交通の果たす役割を分析する研究が多くなりつつあり、交通経済学、交通政策学、交通工学、交通史などの分野と共通する研究基盤や共同研究が成立しつつある。
(2)具体的な地域における交通流動を因子分析などの計量的手法によって分析し、主として交通流動の型や地域間の結合、交通量予測などの研究を行う立場。研究方法の点では計量地理学に分類される。
[青木栄一・青木 亮]
『有末武夫・柾幸雄・青木栄一編『交通地理学』(1968・大明堂)』