人事評価(読み)じんじひょうか(英語表記)performance appraisal

最新 心理学事典の解説

じんじひょうか
人事評価
performance appraisal

人事評価は,組織がメンバーの個性や職務遂行の過程・結果などを把握して人事処遇・人材育成などの人材マネジメントを展開する過程である。評価処遇の検討資料であると同時に動機づけや指導の機会ともいえ,組織秩序維持と人的資源活用促進の両機能を有し,人材マネジメントシステムの中核に位置づけられる。一方,人事評価を受ける組織メンバーにとっては,結果が処遇につながるがゆえに重大な関心事になる。評価の過程と結果の両面における公正性に関心が集まりやすく,その納得感が組織コミットメントや仕事への動機づけ,さらには職業生活全体の安寧を左右することにもなる。

 分析的に見ると,ここには二つの過程が存在している。一つは,職務遂行の成果,組織への貢献度あるいは能力・スキル,性格,態度などの特性を把握する過程である。他の一つは,その結果を基にした配置・処遇,育成的フィードバックなど,人事・教育への適用過程である。しかし特性や状況の把握と処遇の検討・人材育成など複数の目的が一体として展開される場合もある。たとえば業務を進めるしくみとして目標管理制度が適用される場合は,被評価者自身が目標を申告したり成果を自己評価するなど,評価と育成の二つの意図をもって上司と部下のやりとりが展開される。

 人事評価のあり方は,人的資源管理論のテーマとして経営学の文脈から議論されるが,心理学の知見も生かされる。評価内容の検討においては,能力,パーソナリティなどの人格に関する諸理論が利用される。また,人事評価が主に経営管理者などによる主観的な評定であることから,心理測定の理論や技術も適用される。人事評価は一つの観察評定尺度と考えることができ,その測定の安定性は心理測定論の観点である信頼性から検討できる。さらに,評定過程やフィードバックのあり方の適切さなども視野に入れて全体の有効性,すなわち妥当性の視点からの検討が期待される。

【評価内容・目的・方法】 人事評価の主要な情報源は管理者すなわち上司による評定で,これに対して人事考課の用語が用いられたこともある。「考課」の名称は特殊な用語であるが,古代中国における官吏の人事管理用語が奈良時代に移入され,その後近代において,管理者による人事評価の用語として再び用いられるようになった。

 管理者による人事評価は,評価の目的や内容によって業績評価,能力評価に二分されることが多い。業績評価は当該期間中の成果や組織への貢献度を評定するもので,身分や役割に照らして定められた目標の達成度の評定であるため,成績評価とよばれることもある。昇給,賞与などの成果配分的な報酬の基準として適用されることが多い。他の一つの能力評価では,当該職責と関連づけて,能力・スキルが評定される。現実の職務遂行能力の評定で,認知的な能力だけでなく実践的な能力・社会的スキル,動機・態度的・情動的な側面,さらに人間力,人望などの人格が包括的に評定される場合もある。また情動的な側面は,情意評価として業績,能力と独立させて評定されることもある。いずれも,昇進・昇格,異動・配置などの検討資料,人材育成・キャリア形成支援などの資料として適用されることが多い。

 管理者による評価は,業績評価では主に組織で得られた成果の配分が検討され,能力評価では主に身分変更の是非が検討される。職務経験の年数(年功)も能力の一要素として報酬に反映される場合もあるが,むしろ発揮された顕在的能力や成果の基準を重視する傾向にあり,報酬体系は年功給から能力給に移る方向にある。また,評価方法として,管理者による評定以外に心理学的なツール,手法が適用されることもある。360度多面観察評価ツールや適性検査もそれらの一つで,配置・処遇を検討する材料にされたり,本人に結果をフィードバックするなど能力開発プログラムの素材として適用される。このように人事評価の展開動向には一般的な傾向が見られるものの,個別組織においては多様な様相が見られ,そのあり方が組織文化,風土の形成に影響を与えている。

【職務遂行能力の評定尺度】 人事評価は主観的な評定が主となり,そこには心理的なバイアスが生じやすい。それを抑えるために評定尺度の工夫がなされている。主な評定尺度には要素評定尺度graphical rating scale,基準明示評定尺度behaviorally anchored rating scale,行動評定尺度behavioral observation scaleが挙げられる。人事評価の目的や場面,展開の仕方によって適否が判断される。

 要素評定尺度は図式評定尺度ともよばれ,評定する要素の名称とその定義のみを示して,リッカート尺度で評定を求める形式である。たとえば,「企画力」の評定を求める場合,評定要素名とその内容が説明され,①不十分,②やや不十分,③どちらともいえない,④ほぼ十分,⑤十分,などの連続的な尺度上に評定が求められる。評定者に要素の意味内容を共有させるのが難しいが,評定の負荷が小さいため運用しやすい。

 基準明示評定尺度は,評定点・段階の意味内容を具体的に示して評定を求める方式である。たとえば,「企画力」の評定を求める場合,①独力で考えをまとめられない,②指導されながら考えをまとめられる,③相談しながらそれなりの考えをまとめることができる,④独力でそれなりの考えをまとめることができる,⑤独力で新たな視点から考えを提案できる,などの段階を示して評定を求める。尺度としての1次元性を保ち評定点・段階間の距離を均一に保つ技術が難しく開発に困難を伴うが,評定結果の意味内容が被評定者に伝えやすいのがメリットとなる。

 行動評定尺度は,一つの評定要素を具体的な職務行動に分解して複数の項目に対して複数名にリッカート尺度で評定を求めて,それを総合することによって要素評定点とする方式である。たとえば「企画力」では,「関連する情報を収集している」「考えをわかりやすく伝えている」など,数項目で代表的な職務行動を提示し,①まったくしていない,②まれにしている,③時々している,④よくしている,⑤いつもしている,などによる評定点を求める。評定者,評定項目が多くなり,評定作業の負荷が大きいのが難点であるが,観察が容易な職務行動が評定対象になるため,他の方式に比べバイアスが抑えられやすい。

 いずれの評定尺度においても,分析的な多元的評価であることが多い。しかし能力開発以外の処遇を決める場面では,評価結果が適用される段階では包括的な単元的な「1」「0」の採否など人事上の判断が導かれる。評定尺度の開発,運用には労力,技術の両面の負荷が小さくないが,評定者に対して分析的な視点を提供することによって信頼性を確保することに意義が見いだされる。

【人事評価における評定バイアス】 人事評価は観察をもとにした主観的な評定という本質を有している。したがって,そこには多様なバイアスが存在する。バイアスを完全に統制することは望めないが,無策というわけでもない。評定尺度法により分析的な評定プロセスが設計されるのもその方策となるし,評定者を複数にしたり評定者間で評定結果のすり合わせや討議をするなどである。さらに評価者研修などを通じてバイアスについて評定者に事前に理解させ,それに陥らないように注意を喚起するのも有効とされる。

 主なバイアスには,ハロー効果halo effect,論理的誤謬,対比効果,寛大化・厳格化,などが知られている。ハロー効果は,光背効果ともよばれる。仏像が光背があることによってインパクトが大きくなり全体のイメージが形成されやすいように,一つの印象的な特徴により全体の評定が左右されやすい傾向のことである。愛想が良い点を見て社会的スキル全体も優れているように評定するなどである。論理的誤謬は,ある特徴から論理的に類推して評定しがちな傾向である。声が大きいがゆえに仕事に意欲的と類推して評定するなどである。対比効果は,被評定者と自分を比較して評定しがち,あるいは被評定者間を比較して評定しがちになる傾向である。メンバーとして優れた業績を上げたことのある評価者が,標準的な部下を低く評定しがちになるなどである。寛大化・厳格化は,評価の影響を慮るなどして,むやみに寛大な,あるいは逆に必要以上に厳しい評定をしがちになる傾向である。 →職業適性 →職務態度
〔二村 英幸〕

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