企業において上司が部下の能力、業績、勤務態度・意欲(情意ともいわれる)などを評価すること。官公庁などでは勤務評定ともよばれる。昇給や賞与の査定をはじめ、昇進・昇格、配置・異動、教育訓練など人事管理に広く利用される。
評価を実施するうえでは、あらかじめ評価要素と評価基準を明らかにしておく必要がある。たとえば、業績評価の場合は、達成された仕事の質と量が評価要素であり、それを評価する基準は事前に設定された達成目標である。評価の手法としては、図式評定尺度法(各評価項目ごとに評価段階を表す目盛りのついた尺度を設け、該当する箇所をチェックする方法)、チェックリスト法(プロブスト法とも。勤務における態度や行動の特性を列挙したチェックリストを用意し、被評価者の実際の行動を観察し該当する項目をチェックする方法)、目標管理法(一定期間の職務遂行にかかわる具体的な目標を設定し、その達成度によって業績を評価する方法)などがある。
人事考課は19世紀から20世紀初めにかけて、アメリカにおいて政府機関を中心に開発され、第一次世界大戦後に民間企業に普及したとされる。日本への本格的導入は1950年代以降のことである。その後、評価の主体(評価者)、要素、手法、手続、さらには利用目的などの面で多様な展開がみられる。
ハロー効果(後光効果。被評価者の、ある特定の事態や時点における強い印象により形成される全体的印象が個々の評価要素の評価に影響を与えること)をはじめ、評価者が陥りやすい誤りが専門家によりいくつか指摘されている。その対策として、評価者の複数化による調整、評価者の訓練なども行われる。
人事考課の利用目的にかんがみて、制度とその運用には従業員の納得が得られるような客観性や公正さがなによりも求められる。そのためには、評価要素や基準などの公開、評価結果の本人へのフィードバック、労働者側の発言権・異議申立て権や労働組合による規制などが欠かせない。
[浪江 巖]
『遠藤公嗣著『日本の人事査定』(1999・ミネルヴァ書房)』▽『笹島芳雄著『アメリカの賃金・評価システム』(2001・日経連出版部)』▽『日経連人事賃金センター編『職務区分別人事考課の考え方と実際』(2002・日経連出版部)』
仕事の結果または能力の程度を判定し,それを働く人々の処遇に結びつけること。古くからみられ,古代の律令制のもとでは官人に対する考課として行われていた。近代日本においても,第2次大戦後のように合理的で体系的ではないが,戦前から行われていた。現在日本で人事考課と呼ばれているのは,おもにアメリカで開発されたものの導入である。アメリカにおいても,つぎの用語の変遷が示すように大きく変化している。
すなわち,最初はmerit ratingという人事考課の原語でもある言葉が使われ,一定の判定尺度に照らして判定した。ついで量的判定ともいえるevaluationという言葉が使われ,さらに,一定の基準に照らしたうえで評価する意味からappraisal(評定)が用いられ,最近ではperformance review(遂行度審査)という言葉が使われている。この遂行度審査という人事考課は,ゼネラル・エレクトリック(GE)社の開発によるものであり,仕事を計画し,目標を定め,その遂行状況を審査するやり方で,人事考課に〈目標による管理〉を組みこんだものである。人事考課はとかく人物や特性の判定に傾きやすく,人事考課に最も必要な本人の納得性と客観性が得にくいので,各人が分担業務についてみずから目標を定め,努力した結果をみずから判定することによって,より有効なものにしようとしたものである。
日本の場合は,雇用慣行として定年までの終身雇用と年功序列制が定着していて,短期の業績に焦点をあてた人事考課より,長期にわたる判定によって長期的な処遇に結びつけるやり方が支配的である。いずれにしても,人事考課にあたって最もたいせつな点は,企業その他の組織体の業績に寄与したか否かを通して各人の能力の伸長度を判定することである。その結果,業績に寄与したことは賞与または昇給に反映し,能力の伸長は昇進またはローテーションに結びつけられるのである。本人の性格や人物いかんは,それが本人の行動にあらわれ,業績に影響するときにのみ取り上げるべきである。
→業績主義 →人事管理
執筆者:小野 豊明
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…現行の公務員制度においては,〈一般職〉である限り,国家公務員法(72条)または地方公務員法(40条)に基づき勤務評定が行われることになっている(1952年4月〈人事院規則10の2〉が制定されてから実施)。この勤務評定は,戦前の人事考課と比較して,人物の評価を試みるというより職務との関連においてのみ職員をとらえようとする。そこで〈勤務実績〉と〈勤務成績〉の区別がなされている。…
※「人事考課」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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