日本大百科全書(ニッポニカ) 「人工土地」の意味・わかりやすい解説
人工土地
じんこうとち
一般には自然の土地の上に人工的に構築された土地的利用が可能な1層または数層の基盤をいう。ここで土地的利用とは、たとえば建物を建てたり、植物を育てたりすることである。人工土地の概念を都市や建築の領域に初めて持ち込んだのはフランスの著名な建築家ル・コルビュジエであるといわれているが、日本では、その弟子にあたる吉阪隆正(よしざかたかまさ)により1950年代中ごろに提唱された。これが現実性をもって検討され始めたのは1960年(昭和35)以後で、大高正人(おおたかまさと)らにより新たな視点から提案され、研究開発が進められた。大高らは人工土地を都市計画的立場からとらえ、細分化された日本の前近代的土地所有形態を立体的に再構成するとともに、人工土地の下部を主として公共的・都市的利用に供し、私有地との調和を図りつつ公共用地の絶対的不足を打開する手段としてこれを位置づけた。建設省(現国土交通省)もこの提案に着目して研究助成を開始し、日本建築学会都市計画委員会には人工土地部会が発足した。さらに1967年には日本における人工土地第一号が香川県坂出(さかいで)市で完成(第1期分)している。今日、さまざまな都市設備を備えた人工地盤としての人工土地は、主として技術的な面において各地で応用されるようになり、道路、鉄道などの上部につくられたものなど、内外に各種の事例が存在する。
一方、こうした流れとはやや異なる視点から人工土地を再検討しようとする気運が1970年代中ごろからおこっている。これは、60年代より増加してきている中高層集合住宅に対する建設的批判に基づくものであり、住宅の立体化手法を根本的に変革する手段として新たに人工土地を位置づけるものである。住宅計画の目標が量から質の問題に移行したといわれるようになったのは、このころからであるが、都市居住者の求める住宅の質は単なる住戸面積の拡大や設備水準の向上にとどまらず、住戸の接地性や個別性、住戸まわりの領域的安定性、さらに相隣環境や防災安全性、景観などを含めた総合的な住環境を意味するようになってきている。人工土地による住宅供給の提案は、このような要求にこたえようとするものであり、数層の人工土地を計画的に建設し、各戸に庭のある戸建住宅に近い性能をもつ住宅を立体的に実現しようとするものである。こうした提案は、さまざまな立場から数多く行われており、実施に向かって研究、開発が進められているが、同時に新しく建設される集合住宅の計画のなかにその成果が反映されつつある。
なお、人工土地の実施上の問題点としては、構造などの技術的問題や費用的問題とともに、所有、利用、管理をめぐる制度的問題が大きい。
[髙田光雄]