人工細菌(読み)じんこうさいきん

共同通信ニュース用語解説 「人工細菌」の解説

人工細菌

化学的に合成したDNAなどを用いて作り出した細菌。2010年にクレイグ・ベンター博士らが生きた細菌を初めて作製した。人工的に新しい性質を持った生物生命機能を作る「合成生物学」の流れをくんでおり、02年には米チームが遺伝情報をもとに細菌より単純なポリオ(小児まひ)ウイルスを合成している。有用な薬の開発や食料生産の効率化などの応用が期待される一方生態系破壊や殺傷力の強い生物兵器の開発につながると警戒する声もある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「人工細菌」の意味・わかりやすい解説

人工細菌
じんこうさいきん

人工的につくられた、自己増殖する細菌。ヒトの全遺伝情報(ゲノム解読に携わったアメリカのクレイグ・ベンターJohn Craig Venter(1946― )の研究チームが2010年に世界で初めてつくりだした。クレイグ・ベンターのチームは、実験的に操作しやすいマイコプラズマという細菌の遺伝情報をまねた人工ゲノムコンピュータで設計。ゲノムを構成するDNAの断片を化学合成し、これを大腸菌などのなかで1本につなげて人工ゲノムをつくった。これを別の細菌に移植したところ、マイコプラズマと同じタンパク質をつくりだし、細胞分裂して自己増殖を繰り返した。この実験結果はアメリカの科学雑誌『サイエンスScienceに掲載された。

 既存遺伝子を組み換える従来の手法と比較して、遺伝情報の段階から自由に設計して有用な生物をつくりだすことができるという可能性を秘めており、遺伝子工学に革新をもたらす技術である。ワクチンバイオ燃料の効率的製造、新たな食品・化学物質の開発、二酸化炭素を高効率で吸収する細菌づくりなど、広く産業分野への応用が考えられ、有用な医薬品開発や食糧・エネルギー問題の解決につながるとも期待されている。

 一方、自然界に存在しない人工細菌をいかに隔離された施設内に閉じ込めておくかといった安全対策も求められている。生物兵器への転用や安全性確保などを危惧(きぐ)する意見もあり、地球上に存在しない「人工生命」につながる技術で、人類が未知の生命を生み出してよいのかといった生命倫理の問題を提起した。

[編集部]

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