人民裁判(読み)ジンミンサイバン

精選版 日本国語大辞典 「人民裁判」の意味・読み・例文・類語

じんみん‐さいばん【人民裁判】

  1. 〘 名詞 〙 職業的な裁判官でなく、人民の中から選出された裁判官が公開で行なう裁判。社会主義国の第一審裁判にはこの例が多い。日本では、結束した人々が私的判断で行なう「つるしあげ」と同義に用いられることが多い。
    1. [初出の実例]「いや、人民裁判といふのは、僕が勝手につけた名前だが、部落の年寄達が三四名集って、事件の関係者を取調べ、判決を下すんだよ」(出典:石中先生行状記(1949‐50)〈石坂洋次郎〉一部)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「人民裁判」の意味・わかりやすい解説

人民裁判
じんみんさいばん

一般に社会主義諸国における裁判制度をさして用いられることもあるが、これらの国に人民裁判という制度・手続が存在するわけではなく、それは日本で一部に行われている一種俗語であって、大衆的集会による反人民的行為の糾弾といったニュアンスをもつものとみられる。ソ連では最下級の裁判所のみが人民裁判所という名称であったし、また中国ではすべての裁判所が人民法院という名称を有するが、これらの場合の人民という用語の意味は、司法活動を職業裁判官のみにゆだねるのではなく、人民の参加という理念に基づき、職業裁判官と選挙された素人(しろうと)裁判官(人民参審員)とが同資格で事件審理にあたるという点にある(たとえば1977年ソ連邦憲法151条・152条)。なお社会主義諸国では、通常の裁判所体系とは別に、職場等における同僚間の社会的教化の方法で軽微な民事・刑事・労働規律事件を処理する社会的機関も法制化されている。

[大江泰一郎]

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