人穴(読み)ヒトアナ

デジタル大辞泉 「人穴」の意味・読み・例文・類語

ひと‐あな【人穴】

火山のふもとなどにある洞穴溶岩表面が固まり、内部の固まっていない部分が流出してできたもの。昔、人が住んだといい、富士山北西麓に「富士の人穴」がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「人穴」の意味・わかりやすい解説

人穴 (ひとあな)

火山のふもとなどにある洞穴,すなわち溶岩トンネルのことで,富士山の西北麓の〈富士の人穴〉が有名である。《吾妻鏡》に,建仁3年(1203)6月3日源頼家の富士の巻狩りの際に,新田四郎忠常(仁田忠常)がこの人穴を探るよう命じられ,主従6人で行くが,穴の奥に大河があり,波が逆巻いていて渡れず,そこでたいまつで川向うを照らすと奇特が見えた。するとたちまちに郎従4人は急死し,忠常は将軍から受けた剣を川に投げ入れ,翌日やっと戻ることができたと語られ,ここが〈浅間大菩薩の御在所〉であるという古老の話が付されている。この段階にはまだ冥府探検の話とはなっていないが,富士権現の霊験譚である室町時代の御伽草子富士の人穴》には,新田四郎が浅間菩薩に会って地獄を案内してもらう地獄めぐりの話となっている。《神道集》の諏訪明神の本地物語である甲賀三郎譚では,甲賀三郎が兄のために蓼科山の人穴に落ち,そのまま73の人穴と国々を遍歴して,浅間獄から蛇体となって地上に現れ諏訪明神にまつられたとある。いずれも,人穴が地下界(冥界)への通路とみなされていたことを示す。
洞窟
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人穴 (ひとあな)

静岡県富士宮市北方,富士山西麓の朝霧高原にある溶岩トンネル。同市の大字名でもある。長さ約70m,横断面はかまぼこ形をしている。富士山の側火山犬涼(いぬすずみ)山から流出した玄武岩質の溶岩流に生成した洞穴で,高温で流動性の高い溶岩の表面が冷却固化し中央部で溶岩が流出したあとに,トンネル状に空洞が残されたもの。富士山麓にはこうした溶岩トンネルが約100ヵ所知られ,一部は風穴,氷穴とも呼ばれる。人穴と同じ溶岩流内にも富士山麓最大規模の三ッ池穴をはじめ船穴,新穴,姥穴などの溶岩トンネルがある。人穴は《吾妻鏡》にも記載され,源頼家の命により仁田忠常が探検したとある。この話は御伽草子《富士の人穴》によって広く知られた。また,江戸時代初期に富士講を開いた長谷川角行が修行したところとしても知られ,洞口近くには角行の墓や多くの富士講先達の碑がある。近くに人穴という名の集落があり富士講の宿としてにぎわった。
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世界大百科事典(旧版)内の人穴の言及

【富士信仰】より

…かぐや姫伝説は富士信仰の女神と同一視されて,人口に膾炙(かいしや)していたのである。 一方,富士の人穴(ひとあな)も聖地視されており,俗人の近づけぬ場所であった。《吾妻鏡》に仁田四郎忠常の一行が人穴に入り,ふしぎな体験をしたあげく,たたりにあったことが記されている。…

【富士の人穴】より

…御伽草子。《仁田四郎》《富士の人穴草子》ともいう。正治年間(1199‐1201),和田平太胤長は源頼家の命を受け,見知る者のない富士の人穴に入るが,十二単衣に身を飾り機を織る女房が現れ出て追い返されてしまう。…

【人穴】より

…富士山麓にはこうした溶岩トンネルが約100ヵ所知られ,一部は風穴,氷穴とも呼ばれる。人穴と同じ溶岩流内にも富士山麓最大規模の三ッ池穴をはじめ船穴,新穴,姥穴などの溶岩トンネルがある。人穴は《吾妻鏡》にも記載され,源頼家の命により仁田忠常が探検したとある。…

※「人穴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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