日本大百科全書(ニッポニカ) 「令嬢ジュリー」の意味・わかりやすい解説
令嬢ジュリー
れいじょうじゅりー
Fröken Julie
スウェーデンの作家ストリンドベリの一幕戯曲。1888年作、89年パリで初演。気位高い伯爵令嬢ジュリーは、男性的気質の持ち主。下男ジャンは表面従順だが、内心は計算高くたくましく生き抜こうとする男。男性と女性、上層階級と下層階級の対立、葛藤(かっとう)後、ジュリーは自らを滅ぼしてゆく。実話にモチーフを得た作で、作者自身「自然主義悲劇」と副題をつけている。白夜の夏至祭のできごとにパントマイムとバレエの場面を配し甘美な情緒も漂う。官憲の目をはばかる出版社との間で、戯曲の内容について応酬があり、現在の形に書き直された。スウェーデンでの上演は1904年。長文の序文は、作品成立の由来、作者の意図、演劇観のほか、音楽、照明などの具体的指示も含まれていて興味深く、近代演劇史の文献として重要な意味をもつ。ストリンドベリの数多い戯曲のなかで、日本の読者にとってもっともなじみの深い作品である。
[田中三千夫]
『千田是也訳『令嬢ジュリー』(『ストリンドベリ名作集』所収・1975・白水社)』▽『杉山誠訳『令嬢ジュリー』(『世界文学全集20』所収・1952・河出書房)』