晩秋から冬にかけて,主として離乳期前後(生後6ヵ月から1年半ころ)の乳児がかかる乳児下痢症のことで,コレラによる米のとぎ汁様便に似た白っぽい下痢便を出すのでこの名がある。冬季白色便下痢症,白痢などとも呼ばれる。仮性小児コレラという病名は1910年に伊東祐彦がつけたもので,日本ではかなり古くから注目されていた病気である。日本中どこでも発生するが,その発症には気象,気温と相関があり,全国的にみると北から南へと発生が移っていくようである。つまり気温が15℃以下,とくに10℃内外のとき最も多く発症するので,北海道,東北地方では11月ころ,鹿児島では1~2月ころに最も多くみられる。以前は母乳栄養児に多いとされていたが,人工栄養児にもみられる。乳児院などで集団発生することがあり,伝染性のあることが報告されていた。
原因については長い間小児科学会での論議の的であった。上部小腸内に腸球菌が異常に増殖するための発酵性下痢であるとする腸球菌説,過敏性体質,年齢,食事,腸内菌叢の変動などの要因によって準備状態にあるところに寒冷刺激がストレス源となり下痢が起こるという体質説,特定の,あるいは非特定のウイルスの腸管内感染によるものとするウイルス説などである。しかし1973年,オーストラリアのビショップR.F.Bishopらが乳児下痢症の腸管上皮細胞内にロタウイルスとよばれるウイルスを発見し,日本でも臨床的に仮性小児コレラと診断された患者から高率にロタウイルスが確認され,仮性小児コレラはロタウイルス感染による乳児の胃腸炎であるとされるようになった。便が白くなる機序については完全に解明されてはいないが,ロタウイルスの感染が十二指腸や空腸上部に最も強く起こることから,その影響で胆道ジスキネジーが起こって胆汁の排出が妨げられ,一過性に便が白くなるものと考えられている。ロタウイルスが確認された乳児下痢症の30%に白色便がみられたという報告があるので,仮性小児コレラあるいは白色便下痢症としていたものは乳児のロタウイルス胃腸炎の一部をみていたということになる。
仮性小児コレラが他の乳児下痢症と異なる点は,便が白っぽいということのほか,下痢に先立って嘔吐をすることが多い。大量の水様下痢便がつづくので早く処置をしないと脱水症におちいることが多いことなどである。しかし嘔吐は1~2日,下痢も2~3日で自然にとまるものが多く,脱水症の処置さえ行えば予後は良好な病気であり,それほどおそろしい病気ではない。
執筆者:藪田 敬次郎
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