改訂新版 世界大百科事典 「仰韶遺跡」の意味・わかりやすい解説
仰韶遺跡 (ぎょうしょういせき)
Yǎng sháo yí zhǐ
中国,河南省澠池(べんち)県仰韶村にある新石器時代の仰韶文化から竜山文化にかけての遺跡。ヤンシャオ遺跡とも呼ぶ。1921年,J.G.アンダーソンが発掘し,彩陶遺跡として報告した。これは中国の新石器時代遺跡の最初の科学的な発掘調査で,仰韶文化の名称はこの遺跡にちなむ。51,62年中国科学院考古研究所によって再調査され,仰韶文化の標準遺跡としては適当でなく,廟底溝類型の仰韶文化,廟底溝第2期文化(竜山早期),河南竜山文化,東周の4文化を含む遺跡であることがわかった。遺跡は仰韶村南方約1kmの黄土台地にあり,東西480m,南北600mの範囲にわたる。文化層の厚さは平均3mある。地層の断面には口部が小さく底の大きな袋状の竪穴が多数みられ,それらは貯蔵穴として使われた。また井戸と思われる深さ5.4mの竪坑もある。アンダーソンに同行したO.ズダンスキーの調査で17体の,さらに51年の調査でも1地点で9体の人骨が発見された。これらは多く頭を南もしくは西に向ける仰臥伸展位で埋葬されているが,手がかりとなるような副葬品がないため,墓葬の年代は確定できない。紅陶と彩陶は少なく,灰陶が中心で,後年発見された廟底溝第2期文化の特徴とほぼ同じである。彩陶は轆轤(ろくろ)を使用しない手捏ねで,良質の胎土の赤褐色の地肌に赤色ないし黒色顔料で木葉文,円文,渦文,格子文などを組み合わせた文様を施す。器形は鉢,碗,皿が多く,広口の壺もある。灰陶は3足の鬲(れき)などがあり,表面に縄蓆文を施す。黒陶には鉢,碗,鼎,広口壺などがある。石器は石斧,有孔石斧,石鏃,石庖丁,石鋤,紡錘車,石環などの磨製石器が主体である。このほかに骨角器,土製の環や紡錘車,土器片利用の庖丁などもある。また籾痕が発見され,仰韶文化期に水稲耕作が行われたことを示す資料として注目されたが,出土した生産用具から考えて,この時期の米作の可能性は薄い。大量の豚の骨も出ており,家畜として飼われたことを示す。
執筆者:横田 禎昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報