企業活動にともなう損害につき,企業自身が負担する賠償責任。企業責任は日常語として,道義的責務や経済的負担など多義的に使われているが,法律的には,法令違反など違法な行為について企業者が負担する法律上の責任を指す。したがって,いわゆる企業犯罪に対する刑事責任を意味する場合もあるが,この場合には,個人の責任が原則であって,企業もしくは組織体が刑事責任を負うことはまれである。もっとも近時,いわゆる公害関係行政刑法など,企業自身の刑事責任(たとえば罰金)を規定する法律が散見されるに至っている。しかし,企業責任は通常,企業の民事責任つまり賠償責任の意味で使われており,これが最も重要である。現代社会では,企業活動に付随した事故が多発しており,公害など現代的な事故類型は,そのほとんどが企業活動から生じているのであり,これらの被害者に十全な救済を与える必要性が高い。近代の企業は,一方ではなはだしい危険(工場内の機械・諸施設の故障による事故,鉱害,大気汚染・水質汚濁,高速交通手段の事故)を包蔵し,他方において,多大の利益を収めている。ところで民法の一般原則によれば,過失ある加害行為者のみが賠償責任を負うしくみになっている(民法709条)。企業活動は社会に有用のものであるが,企業活動による事故が発生した場合,そのあり方に照らして,企業に過失がない場合でも,被害者に賠償を与えないことは公平でない。そうしたところから,企業責任の理想は,企業自身が無過失責任を負担することに帰着する。
だが,一口に企業活動上の損害といっても,それが企業内部で発生する場合と企業外部に及ぶ場合とがあり,法律上の扱いが異なっている。前者は労働災害が典型例であり,これは労災補償の対象となる。後者は不法行為の問題となる。これに関連して,原子力事故や鉱害,公害などについては,企業の無過失責任を定める特別法が存在するが,特定の分野に限定されており,十分とはいえない。そこで,民法上の特別な責任の活用が図られ,使用者責任と工作物責任が責任追及の手段とされている。前者は加害行為をした被用者の過失による事故については有益であるが,加害被用者を特定し,その過失を立証する必要があり,この点に問題が残る。後者は施設的欠陥による事故については有用だが,工作物に起因する事故にしか利用できず,これが難点である。他方,過失を拡張的に修正して,企業の過失を緩やかに認定する方法も考えられており,現に,そうした裁判例も少なくない。このように,各種の法制度を活用して,企業責任の理想実現に努力が払われているのが,今日の姿である。
執筆者:國井 和郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
企業がその生産活動から生じる損害について、これを賠償する責任。企業は生産活動を通じて収益をあげているが、他方、各種の公害を生じさせており、それを企業は賠償するべきであるとの考え方に基づいた、無過失責任が提唱されている。
[編集部]
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