使用者責任(読み)しようしゃせきにん

共同通信ニュース用語解説 「使用者責任」の解説

使用者責任

従業員が業務を通じて第三者損害を与えた場合、雇い主賠償責任を負うとする民法規定。指定暴力団トップについては、2008年施行の改正暴力団対策法で責任追及が容易になった。警察庁によると、暴力団トップに賠償を求めた訴訟はこれまで22件あり、極東会を巡る今回の訴訟を含めると10件が係属中。最近では今年6月、住吉会系組員らが関与した特殊詐欺事件の被害者が、住吉会幹部に損害賠償を求め提訴した。既に終結した裁判和解による場合が多い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「使用者責任」の意味・わかりやすい解説

使用者責任
しようしゃせきにん

使用者は、被用者が事業執行につき第三者に加えた損害の賠償責任を負い(民法715条1項本文)、これを使用者責任という。これは、使用者は、被用者の使用によって利益を得ているのであるから、その損失も負担すべきであるという報償責任原理に基づくものである。この責任が成立するためには、(1)使用関係が存在すること、(2)被用者の加害行為が事業の執行についてなされたこと、(3)被用者の行為が不法行為にあたること、が必要である。もっとも、使用者が被用者の選任監督上の無過失を立証すると、使用者は免責されることとなる(同法715条1項但書)。しかし、学説・判例は、この免責事由をきわめて厳格に解しており、ほとんど無過失責任に近い。(1)の「使用関係」とは、使用者が実質的に他人を指揮監督して仕事をさせる関係をいい、一時使用、非営利的使用、無償使用であってもよい。(2)の「事業の執行についてなされた」か否かは、使用者と被用者との内部関係や主観的意図にはとらわれず、行為の外形から客観的に判断される。また、事業と密接不可分な業務や付随的な業務も、ここにいう事業の範囲に含まれる。

 使用者が、この責任により賠償をした場合には、被用者に対する求償権を行使することができる(民法715条3項)。しかし、これが被用者にとって酷な結果となる場合があるので、学説・判例は、信義則等によりこの求償を制限する傾向にある。

[竹内俊雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「使用者責任」の意味・わかりやすい解説

使用者責任 (しようしゃせきにん)

被用者が職務遂行上,他人に加えた損害につき,使用者が負担する特別の賠償責任(民法715条)。この場合,被害者は使用者の過失を立証する必要がない。しかし,使用者は法文上,被用者の選任・監督に過失がない旨を立証して免責され,賠償金を払った場合には被用者に求償することができる。使用者は被用者の使用によって利益を得ているから,損失も負担するのが公平である(報償責任主義)。また,被用者は資力に乏しいので,被害者救済上,使用者に責任を負わせる必要がある。以上が使用者責任の趣旨であり,さらに現在では,企業責任の理念に導かれて,一段と使用者に厳しいものとなっている。まず第1に,前述した免責は事実上認められず,使用者責任は無過失責任に等しくなっている。次に,使用者責任を適用する条件が著しく緩和されており,適用領域もきわめて広い。また,使用者の被用者に対する求償も制限されるに至っている。
企業責任
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「使用者責任」の意味・わかりやすい解説

使用者責任
しようしゃせきにん

ある事業のために他人を使用する者は,被用者が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任があることをいう (民法 715) 。使用者責任は他人 (被用者) の不法行為についての責任である点に特色を有するが,その根拠として,使用者の報償責任あるいは危険責任という考え方があげられている。判例は「事業ノ執行ニ付キ」にあたるか否かの判断について,いわゆる外形標準説をとり,客観的にみて事業の執行と同様な外形を有する行為をすべてこれに含めている。また,民法は使用者が被用者の選任,監督につき相当の注意をしたとき,または相当な注意をしたとしても損害を免れなかったときは免責される旨を規定している (715条1項但書) が,判例はこの免責を容易に認めず,使用者の責任を加重する傾向にある。なお,使用者に代って事業の監督をする者もこの責任を負う (2項) 。

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世界大百科事典(旧版)内の使用者責任の言及

【企業責任】より

…これに関連して,原子力事故や鉱害,公害などについては,企業の無過失責任を定める特別法が存在するが,特定の分野に限定されており,十分とはいえない。そこで,民法上の特別な責任の活用が図られ,使用者責任工作物責任が責任追及の手段とされている。前者は加害行為をした被用者の過失による事故については有益であるが,加害被用者を特定し,その過失を立証する必要があり,この点に問題が残る。…

【偽造手形】より

…追認をしない場合には,被偽造者は責任を負わないのが原則であるが,この場合でも,(1)相手方が偽造者に被偽造者名義の手形行為をする権限があると信じ,相手方がそのように信じたことについて正当な理由があるときなどには,被偽造者は,表見代理の法理(民法109,110,112条)の類推適用により,手形上の責任を負わなければならない(1964年および68年の最高裁判決)。また,(2)偽造者が被偽造者の被用者であって,手形の偽造がその事業の執行につきなされたときは,被偽造者は民法715条の使用者責任の法理により,手形の所持人に対して損害賠償責任を負う(1961年の最高裁判決)。 偽造者は,偽造手形を取得して損害をうけた者に対し不法行為による損害賠償責任を負う(民法709条以下)。…

【不法行為】より


[特殊な不法行為]
 日本の民法では,これまで説明してきた709条の一般的不法行為のほかに,いくつかの特殊な不法行為の規定が定められている。責任無能力者の監督者の責任(714条),使用者責任(715条),工作物責任(717条),動物占有者責任(718条),および共同不法行為(719条)がそれである。これらの諸規定による不法行為責任は,支配的見解によれば,土地の工作物の所有者の責任(717条1項但書)を唯一の例外として,いずれも過失責任の原則に立脚したものと解されている。…

※「使用者責任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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