伏字(読み)ふせじ

精選版 日本国語大辞典 「伏字」の意味・読み・例文・類語

ふせ‐じ【伏字】

〘名〙
印刷物で、明記することをはばかる箇所を空白にしたり、〇×などの印で表わしたりすること。また、その箇所やそのしるし。
明暗(1916)〈夏目漱石〉一〇〇「不幸な言葉二人の間に伏字(フセジ)の如く潜在してゐたお延といふ名前に点火したやうなものであった」
印刷組版にあたり、必要な活字がない場合に、かりにありあわせの活字を逆にしてそこに入れておくこと。また、その活字。げた。

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改訂新版 世界大百科事典 「伏字」の意味・わかりやすい解説

伏字 (ふせじ)

公刊の印刷物で,明白な表現を避けて,その部分を文字の代りに空白や〇や×で表現することをいう。日本の伏字は,近代日本ジャーナリズム誕生と同時に始まる。明治政府はその成立と同時に言論・報道の官僚的弾圧を開始した(言論統制)。発禁を中心とする各種取締法の制定である。1869年(明治2)に新聞紙印行条例,ついで讒謗律(ざんぼうりつ)(1875)を経て,出版法(1893),新聞紙法(1909)など,時を追って体系化した。取締りの内容は,安寧秩序紊乱(びんらん)と風俗擾乱(じようらん)の二つが柱であった。前者は天皇制資本主義の批判や社会主義宣伝に対する弾圧で,後者は性記事や恋愛描写などに対する取締りであった。取締法をおかせば,発禁や削除などで厳しく処分された。問題は違反の認定だが,裁判にはよらず内務大臣の行政権の発動によるものとされた。そのためひとたび発禁と決まれば他に救済の方途はなかった。出版を業務とする出版者は,発禁処分を受けないように,反戦反軍,革命,共産主義,姦通接吻など,違反とみなされそうな言葉をあらかじめ伏字とするようになった。伏字が最も多く使われたのは,第1次大戦後の1920年代から,日本が侵略戦争を始める30年代の中ごろまでであり,本によっては数ページにわたって伏字という例もある。ところが,伏字の多い出版物はかえって読者の興味をそそると判断した内務省は,36年秋の全国特高会議で伏字一掃の方針を決め,37年夏の日中戦争開始のころには出版物から伏字は姿を消してゆく。第2次大戦後,GHQも内務省の行った伏字禁止の検閲を踏襲している。伏字禁止をGHQの発案によるとする説があるが,これは誤りである。なおGHQによる検閲は,52年のサンフランシスコ講和条約の発効に伴い廃された。
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