住血吸虫症(読み)じゅうけつきゅうちゅうしょう

六訂版 家庭医学大全科 「住血吸虫症」の解説

住血吸虫症
じゅうけつきゅうちゅうしょう
Schistosomiasis
(感染症)

どんな感染症か

 住血吸虫症の主な病原体は、日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、メコン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫で、前三者は肝臓の、後者は膀胱の病気を引き起こします。

 日本住血吸虫症の感染源は、川や田んぼにすむ小さな巻貝のミヤイリガイで、ミヤイリガイから幼虫が水中に泳ぎ出し、ヒトが水と接触すると感染期幼虫(セルカリア)が皮膚から侵入します。

 日本では、甲府盆地や利根川流域、広島県片山地方、九州筑後地方などにミヤイリガイが生息していたため、これらの地域で古くから日本住血吸虫症が流行していました。しかし、住血吸虫症対策や有病地の都市化などによってミヤイリガイの生息域が狭まり、患者数は減少し、1976年の新規感染者を最後に、現在まで新たな感染者はいません。

 1996年、日本住血吸虫症の撲滅宣言がなされました。甲府盆地の一部には、現在もミヤイリガイが生息していますが、日本住血吸虫の感染は報告されていません。

症状の現れ方

 セルカリアは皮膚から侵入するので、侵入を受けた部分がかゆくなり、赤くはれてきます。感染後1~2カ月たつと、発熱、腹痛、血の混じった便(血便)などの症状が出てきます。これは、住血吸虫の成虫が腸や肝臓の血管のなかで産卵を始めるためです。

 成虫には雌雄(しゆう)の別があり(ほかの吸虫類はすべて雌雄同体)、雄が雌を抱きかかえた状態で産卵します。虫卵は肝臓の血管(門脈(もんみゃく))や腸の血管に詰まり、激しい免疫反応を引き起こします。腸では虫卵のまわりの組織が破壊され、腸に出血するようになります。

 肝臓では、肝細胞が免疫細胞に圧迫されて破壊され、肝臓の機能は失われていきます。数年たつと肝硬変(かんこうへん)になり、腹水がたまると同時に脾臓(ひぞう)がはれてきます。放置すると死に至ります。

 アフリカに分布するビルハルツ住血吸虫は、成虫が膀胱の血管に寄生するので、血尿が出るのが特徴です。

検査と診断

 便のなかから虫卵を検出します。ビルハルツ住血吸虫では、尿から虫卵を検出します。血清検査も有効です。海外の流行地ではこれらの方法に合わせて、肝臓の病変脾臓のはれを超音波検査によって診断しています。

 過去に流行地に住んでいた人では、直腸検診で死んだ虫卵が見つかることがありますが、血清検査で陰性であれば治療の必要はありません。

治療の方法

 抗寄生虫薬のプラジカンテル(ビルトリシド)が有効です。肝硬変にまで進行した場合には、肝硬変に対する治療を行いますが、予後は不良です。セルカリアによる湿疹には、症状を和らげる治療を行います。

病気に気づいたらどうする

 住血吸虫症は症状からの診断が難しいので、予防に努めることが大切です。住血吸虫症は中国、フィリピン、メコン川流域、アフリカ全域、南米、中近東などで広く流行しています。日本住血吸虫以外の住血吸虫も、感染源は淡水に住む巻貝なので、それらの地域では川や湖で泳いだり、水浴びをしたりしないようにします。

奈良 武司

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「住血吸虫症」の解説

住血吸虫症(吸虫症)

 ヒトに感染する吸虫はすべて中間宿主を必要とし,それぞれ複雑な生活環を有している.基本的には終宿主であるヒトから排泄された虫卵は,外界に出るとミラシジウムとよばれる幼虫に発育し,おもに巻貝などの第一中間宿主に取り込まれてスポロシストへと発育する.このスポロシストは種によって娘スポロシストもしくはレジアを経て,最終的には数を増やしながら多数のセルカリアを生じる.住血吸虫では,セルカリアが直接終宿主に感染して成虫になるが,その他の吸虫ではさらに第二中間宿主へと移行してメタセルカリアとなり,終宿主がこれを経口摂取して成虫になる.
概念
 静脈血管内に寄生する住血吸虫の感染による.それぞれの住血吸虫に固有の淡水産の貝を中間宿主とし,その中で発育したセルカリアが経皮的に侵入することで感染するため,疾病の分布は中間宿主の貝の生育域に一致する.おもにアジアではミヤイリガイを中間宿主とする日本住血吸虫(Shistosoma japonicum)が分布し,赤道以北のアフリカと南米諸国ではマンソン住血吸虫(S. mansoni),中東とアフリカ全域にはビルハルツ住血吸虫(S. haematobium)が分布する.わが国でもかつては甲府盆地,筑後川流域,広島県片山地方などの特定の地域で日本住血吸虫症の流行がみられたが,現在は撲滅され,新規の患者は海外で感染した輸入感染症である.一方,世界的には2億人が本疾患に罹患しており,国際保健上重要な疾患である.
病因・感染経路
1)尿路住血吸虫症:
ビルハルツ住血吸虫症が属し,経皮的に侵入したセルカリアが膀胱周囲などの骨盤内静脈に到達して成虫となって寄生する.
2)腸管住血吸虫症:
日本住血吸虫症およびマンソン住血吸虫症が属し,経皮的に侵入したセルカリアは腸管膜静脈に寄生する.
臨床症状
 いずれもセルカリアの侵入に伴い皮膚炎を生じる.
1)尿路住血吸虫症:
成虫が成熟して排卵を始めると,末梢の毛細血管を虫卵が閉塞することで膀胱壁に炎症をきたし,血尿,頻尿などの症状を引き起こす.一方,非流行国の渡航者の場合,セルカリアの暴露量が少なく,無症状で経過して尿所見にも異常を生じないことが多い.慢性期では尿管狭窄に伴う水腎症や腎不全などを生じるほか,膀胱癌との関連性が指摘されている.
2)腸管住血吸虫症:
急性期症状はビルハルツに比べて遅く,感染から発症まで数カ月を要し,発熱,腹痛,肝脾腫のほか,腸管粘膜が傷害され下痢や粘血便を生じる.慢性期には肝硬変を引き起こし,進行すると腹水貯留や食道静脈瘤を伴う.
診断
 成虫の寄生部位を考慮し,尿もしくは糞便からの虫卵を検出するが,少数寄生の場合には検出が困難な場合もある.そのため,腸管住血吸虫症では直腸粘膜掻爬や肝生検も考慮される.わが国での輸入症例では,IgEの上昇や好酸球増加はみられないことが多い.近年,ELISA法による血清診断のほか,糞便もしくは尿からPCR法などによる遺伝子診断が可能である.
治療
 成虫の寿命がおおむね5~10年であることを考慮し,成虫が死滅している可能性の高い陳旧性感染症と考えられる場合には駆虫はしない.駆虫はプラジカンテルを2日間投与する.[前田卓哉]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「住血吸虫症」の解説

じゅうけつきゅうちゅうしょう【住血吸虫症 Schistosomiosis】

[どんな病気か]
 住血吸虫による感染症で、流行地の水田や沼沢(しょうたく)に入ったときにセルカリアという幼虫が皮膚から侵入して感染します。
 種類としては、日本、中国、東南アジアに分布する日本住血吸虫症(にほんじゅうけつきゅうちゅうしょう)、アフリカ、南米に分布するマンソン住血吸虫症(じゅうけつきゅうちゅうしょう)、アフリカ、西アジアに分布するビルハルツ住血吸虫症(じゅうけつきゅうちゅうしょう)などがあります。
 日本ではその撲滅(ぼくめつ)に成功しており、新しい感染者はみられず、慢性症の人が存在するだけになりましたが、最近は、外国の流行地を旅行して感染する人がいますから、注意が必要です。
[症状]
 幼虫が皮膚から入ると、かゆみをともなった皮膚炎がおこり、粘血便(ねんけつべん)や下痢便(げりべん)がみられます。慢性化すると、腸の静脈に寄生する日本住血吸虫とマンソン住血吸虫では、貧血(ひんけつ)が強くなり、肝硬変(かんこうへん)、腹水貯留(ふくすいちょりゅう)、脾腫(ひしゅ)などがおこります。膀胱(ぼうこう)や肛門(こうもん)周囲の静脈に寄生するビルハルツ住血吸虫では血尿(けつにょう)や膀胱炎がおこります。虫卵(ちゅうらん)はしばしば肺、脳などに送られ、てんかん発作(ほっさ)の原因となることもあります。
[検査と診断]
 沈澱法(ちんでんほう)という方法で糞便(ふんべん)や尿を調べ、虫卵が見つかれば診断がつきます。また、からだの外から針を刺して肝臓や直腸の組織をとって調べる検査(肝生検(かんせいけん)や直腸生検)も行なわれます。血清反応(けっせいはんのう)で調べる検査も非常に役立ちます。
[治療]
 プラジカンテルを2日間内服します。副作用がありますから、妊娠3か月未満の人には使われませんし、薬を服用してから72時間以内に授乳をしてはいけません。
 流行地の川や湖で泳がないこと、素足で田んぼに入らないことが予防になります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の住血吸虫症の言及

【届出伝染病】より

…伝染病予防法(1954制定)によって届出が義務づけられているインフルエンザ,狂犬病,炭疽,伝染性下痢症,百日咳,麻疹,急性灰白髄炎(ポリオ),破傷風,マラリア,恙虫(つつがむし)病,フィラリア症,黄熱,回帰熱の13疾患を指す。これらの疾患を診断した医師は,24時間以内に患者の所在地の保健所長に届け出なければならない。しかしながら,指定伝染病の急性灰白髄炎を除いて,隔離・消毒の義務は伴わない点が,法定伝染病指定伝染病とは異なる。…

※「住血吸虫症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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