住血吸虫症

内科学 第10版 「住血吸虫症」の解説

住血吸虫症(吸虫症)

 ヒトに感染する吸虫はすべて中間宿主を必要とし,それぞれ複雑な生活環を有している.基本的には終宿主であるヒトから排泄された虫卵は,外界に出るとミラシジウムとよばれる幼虫に発育し,おもに巻貝などの第一中間宿主に取り込まれてスポロシストへと発育する.このスポロシストは種によって娘スポロシストもしくはレジアを経て,最終的には数を増やしながら多数のセルカリアを生じる.住血吸虫では,セルカリアが直接終宿主に感染して成虫になるが,その他の吸虫ではさらに第二中間宿主へと移行してメタセルカリアとなり,終宿主がこれを経口摂取して成虫になる.
概念
 静脈血管内に寄生する住血吸虫の感染による.それぞれの住血吸虫に固有の淡水産の貝を中間宿主とし,その中で発育したセルカリアが経皮的に侵入することで感染するため,疾病の分布は中間宿主の貝の生育域に一致する.おもにアジアではミヤイリガイを中間宿主とする日本住血吸虫(Shistosoma japonicum)が分布し,赤道以北のアフリカと南米諸国ではマンソン住血吸虫(S. mansoni),中東とアフリカ全域にはビルハルツ住血吸虫(S. haematobium)が分布する.わが国でもかつては甲府盆地,筑後川流域,広島県片山地方などの特定の地域で日本住血吸虫症の流行がみられたが,現在は撲滅され,新規の患者は海外で感染した輸入感染症である.一方,世界的には2億人が本疾患に罹患しており,国際保健上重要な疾患である.
病因・感染経路
1)尿路住血吸虫症:
ビルハルツ住血吸虫症が属し,経皮的に侵入したセルカリアが膀胱周囲などの骨盤内静脈に到達して成虫となって寄生する.
2)腸管住血吸虫症:
日本住血吸虫症およびマンソン住血吸虫症が属し,経皮的に侵入したセルカリアは腸管膜静脈に寄生する.
臨床症状
 いずれもセルカリアの侵入に伴い皮膚炎を生じる.
1)尿路住血吸虫症:
成虫が成熟して排卵を始めると,末梢毛細血管を虫卵が閉塞することで膀胱壁に炎症をきたし,血尿,頻尿などの症状を引き起こす.一方,非流行国の渡航者の場合,セルカリアの暴露量が少なく,無症状で経過して尿所見にも異常を生じないことが多い.慢性期では尿管狭窄に伴う水腎症や腎不全などを生じるほか,膀胱癌との関連性が指摘されている.
2)腸管住血吸虫症:
急性期症状はビルハルツに比べて遅く,感染から発症まで数カ月を要し,発熱,腹痛,肝脾腫のほか,腸管粘膜が傷害され下痢や粘血便を生じる.慢性期には肝硬変を引き起こし,進行すると腹水貯留や食道静脈瘤を伴う.
診断
 成虫の寄生部位を考慮し,尿もしくは糞便からの虫卵を検出するが,少数寄生の場合には検出が困難な場合もある.そのため,腸管住血吸虫症では直腸粘膜掻爬や肝生検も考慮される.わが国での輸入症例では,IgEの上昇や好酸球増加はみられないことが多い.近年,ELISA法による血清診断のほか,糞便もしくは尿からPCR法などによる遺伝子診断が可能である.
治療
 成虫の寿命がおおむね5~10年であることを考慮し,成虫が死滅している可能性の高い陳旧性感染症と考えられる場合には駆虫はしない.駆虫はプラジカンテルを2日間投与する.[前田卓哉]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 「住血吸虫症」の解説

じゅうけつきゅうちゅうしょう【住血吸虫症 Schistosomiosis】

[どんな病気か]
 住血吸虫による感染症で、流行地の水田や沼沢(しょうたく)に入ったときにセルカリアという幼虫が皮膚から侵入して感染します。
 種類としては、日本、中国、東南アジアに分布する日本住血吸虫症(にほんじゅうけつきゅうちゅうしょう)、アフリカ、南米に分布するマンソン住血吸虫症(じゅうけつきゅうちゅうしょう)、アフリカ、西アジアに分布するビルハルツ住血吸虫症(じゅうけつきゅうちゅうしょう)などがあります。
 日本ではその撲滅(ぼくめつ)に成功しており、新しい感染者はみられず、慢性症の人が存在するだけになりましたが、最近は、外国の流行地を旅行して感染する人がいますから、注意が必要です。
[症状]
 幼虫が皮膚から入ると、かゆみをともなった皮膚炎がおこり、粘血便(ねんけつべん)や下痢便(げりべん)がみられます。慢性化すると、腸の静脈に寄生する日本住血吸虫とマンソン住血吸虫では、貧血(ひんけつ)が強くなり、肝硬変(かんこうへん)、腹水貯留(ふくすいちょりゅう)、脾腫(ひしゅ)などがおこります。膀胱(ぼうこう)や肛門(こうもん)周囲の静脈に寄生するビルハルツ住血吸虫では血尿(けつにょう)や膀胱炎がおこります。虫卵(ちゅうらん)はしばしば肺、脳などに送られ、てんかん発作(ほっさ)の原因となることもあります。
[検査と診断]
 沈澱法(ちんでんほう)という方法で糞便(ふんべん)や尿を調べ、虫卵が見つかれば診断がつきます。また、からだの外から針を刺して肝臓や直腸の組織をとって調べる検査(肝生検(かんせいけん)や直腸生検)も行なわれます。血清反応(けっせいはんのう)で調べる検査も非常に役立ちます。
[治療]
 プラジカンテルを2日間内服します。副作用がありますから、妊娠3か月未満の人には使われませんし、薬を服用してから72時間以内に授乳をしてはいけません。
 流行地の川や湖で泳がないこと、素足で田んぼに入らないことが予防になります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

世界大百科事典(旧版)内の住血吸虫症の言及

【届出伝染病】より

…伝染病予防法(1954制定)によって届出が義務づけられているインフルエンザ,狂犬病,炭疽,伝染性下痢症,百日咳,麻疹,急性灰白髄炎(ポリオ),破傷風,マラリア,恙虫(つつがむし)病,フィラリア症,黄熱,回帰熱の13疾患を指す。これらの疾患を診断した医師は,24時間以内に患者の所在地の保健所長に届け出なければならない。しかしながら,指定伝染病の急性灰白髄炎を除いて,隔離・消毒の義務は伴わない点が,法定伝染病指定伝染病とは異なる。…

※「住血吸虫症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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