改訂新版 世界大百科事典 「俗楽旋律考」の意味・わかりやすい解説
俗楽旋律考 (ぞくがくせんりつこう)
音楽理論書。物理学者,手工(工作)教育家で尺八家でもあった上原六四郎(虚洞,1848-1913)の著。上原は,西南戦争の際に軽気球を製作・試乗したことでも知られるが,1882年音楽取調掛に出仕,その後身である東京音楽学校(現,東京芸術大学音楽学部)で音響学を講じた。一方,荒木古童(竹翁)に琴古流尺八を学んで,現行の点譜式楽譜の原型を創案。本書は95年8月15日金港堂より刊行。和装113ページ,漢文書下し体で,仮名は片仮名,句読点はない。日本の近世音楽の音階を,都節音階(陰旋)と田舎節音階(陽旋)に2分して論じた嚆矢(こうし)。後の研究者が,この田舎節について批判することが多いが,本書で扱った田舎節の実例は,いわゆる俗曲(《十日戎》《浅くとも》《沖の大船》)であって,民謡は対象としていない。明治以降の音階論の出発点として本書の歴史的評価がなされるべきである。1927年,兼常清佐の解説を付して〈岩波文庫〉に収められた。
→田舎節 →都節
執筆者:平野 健次
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報