俵物(読み)タワラモノ

デジタル大辞泉 「俵物」の意味・読み・例文・類語

たわら‐もの〔たはら‐〕【俵物】

俵に入れてあるもの。米穀海産物など。
江戸時代長崎貿易で、輸出品であった水産物のうち煎海鼠いりなまこ乾鮑ほしあわびの2品をいう。のち、鱶鰭ふかのひれを加えて3品とした。ひょうもつ。

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精選版 日本国語大辞典 「俵物」の意味・読み・例文・類語

たわら‐ものたはら‥【俵物】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 俵に入れた物。多く、米や海産物をつめたもの。
    1. [初出の実例]「俵物を被註、任彼員数に可打賦」(出典:鵤荘引付‐永正一八年(1521)二月一一日)
  3. 江戸時代、長崎貿易の輸出品であった水産物をいう。元来は煎海鼠(いりなまこ)、干鮑(ほしあわび)の二品であったが、のち鱶鰭(ふかのひれ)を加えて三品とした。諸色(昆布・鯣・天草など)とちがい俵に入れたところからいう。
    1. [初出の実例]「少成共疑敷儀有之候而俵物刎捨候は」(出典:牧民金鑑‐御廻米・延宝元年(1673)二月)

ひょう‐ものヘウ‥【俵物】

  1. 〘 名詞 〙 俵に入れたもの。また俵づめした穀類。俵子(ひょうす)。ひょうもつ。たわらもの。
    1. [初出の実例]「杉ばへの俵物(ヒャウモノ)、山もさながら動きて」(出典:浮世草子日本永代蔵(1688)一)

ひょう‐もつヘウ‥【俵物】

  1. 〘 名詞 〙ひょうもの(俵物)
    1. [初出の実例]「俵物 ヘウモツ 又云俵子」(出典:文明本節用集(室町中))

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改訂新版 世界大百科事典 「俵物」の意味・わかりやすい解説

俵物 (たわらもの)

いりこ,干しアワビフカひれなどの海産物を俵に詰めて輸送したために起こった呼称。近世長崎貿易において中国貿易で銅代替輸出品として重要な地位を占めていた。これらの海産物は中国の高級食品として需要が多く,日本のみならず東南アジア,南太平洋諸地域でも生産され,中国市場へ輸出されていた。幕府は,はじめ長崎の中国貿易を金銀で決済していたが,その流出が著しく増加したため,1685年(貞享2)金銀に代えて銅を輸出することとした。その後,銅の産出額が減退して長崎貿易が不振となったため,幕府は,銅に代えて俵物を輸出しはじめた。こうして俵物は,諸色(コンブするめトサカノリテングサなど)とともに中国向けの重要な輸出品となった。

 99年(元禄12),幕府は長崎町年寄久松善兵衛を俵物諸色支配に任じ,その下に俵物総問屋,俵物大問屋,俵物小問屋を置き,俵物諸色の集荷機構を整え,海産物の輸出増加をはかった。こうして俵物諸色は,長崎貿易において銅を上回る輸出品となった。1744年(延享1),幕府は長崎町人8名に俵物一手請方を命じ,俵物独占集荷体制を成立させた。俵物一手請方問屋は,45年長崎,47年大坂,下関に俵物会所を設け,そのほかにも指定問屋を置き,それぞれの地域の集荷を行わせた。63年(宝暦13)から開始された金銀の輸入は,俵物の重要性を決定的なものとしたが,長崎俵物一手請方問屋の資金的行詰りによって,俵物の生産と集荷が減少した。このため幕府は,85年(天明5)に長崎俵物一手請方問屋による集荷をやめ,長崎会所の下に俵物役所を設置し,同役所による俵物の直仕入れを断行し,浦々における俵物値段の固定化と統制の強化をはかった。以後幕府の俵物独占集荷体制は,諸国浦々をおおい,俵物役所が俵物を買い上げることとなった。幕府の俵物独占集荷体制下における東北諸藩と西南諸藩との対応のしかたには,大きな違いがあった。東北諸藩は幕府の統制強化を背景にして領内の流通統制を徹底し,直接生産者(漁民)との対立を激化させたが,西南諸藩は幕府の俵物独占集荷体制を解体させる動きを示した。1807年(文化4)長州藩は俵物からの利益獲得を目ざし,独自の領内統制を行って藩の役場引請制を実施した。このころ,薩摩藩は北国筋の俵物を大規模に密買し,琉球貿易を通して俵物輸出を独自に行った。このような西南諸藩の俵物集荷の動向は,幕府による長崎貿易を衰退させる原因となった。幕府は59年(安政6)の開港以後も俵物独占集荷体制の存続をはかったが,外国列強の解体要求に屈してしだいに後退し,65年(慶応1)ついに廃止した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「俵物」の意味・わかりやすい解説

俵物(ひょうもつ)
ひょうもつ

一般的には近世中国向け商品として輸出された海産物をさすが、狭義には俵(たわら)包みされた煎海鼠(いりこ)・干鮑(ほしあわび)・鱶鰭(ふかひれ)の三色を、俵包みされない昆布(こんぶ)・鯣(するめ)・天草(てんぐさ)など他の諸色(しょしき)と区別して俵物と称した。「たわらもの」ともよんだが、長崎などでは「ひょうもつ」とよんでいた。海産物の中国向け輸出はすでに近世初期よりみられたが、それが江戸幕府の貿易政策のなかで公的性格をもつに至ったのは1698年(元禄11)以降である。もっともその背景としては、1684年(貞享1)の定高仕法(さだめだかしほう)公布以後、当時輸出品の中核的存在であった銅の流出激増を防止する対策として海産物が中国向け輸出品として登場して以降のことである。幕府は俵物会所を設け俵物集荷を行ったが成果はあがらず、さらに機構改革を行い全国的に集荷統制を行った。

[箭内健次]


俵物(たわらもの)
たわらもの

俵物

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「俵物」の解説

俵物
たわらもの

「ひょうもつ」とも。江戸時代,長崎貿易の輸出海産物。とくに煎海鼠(いりこ)・干鮑(ほしあわび)・鱶鰭(ふかひれ)の3品をいう。俵詰めで輸送したことによる呼称といわれる。唐船の俵物輸出は17世紀末頃から増加し,長崎会所は1744年(延享元)長崎町人8人に俵物一手請方を命じ,諸国浦々からの集荷を独占させた。しかし俵物の唐船への売値固定化と仕入値の高騰で,しだいに請方商人の資金がゆきづまり集荷は減少。85年(天明5)以降は会所が全国から直接仕入れることとなり,長崎・大坂・箱館に俵物役所を設けて独占的に集荷した。幕末開港後は自由貿易を求める欧米の圧力で,1865年(慶応元)長崎会所の俵物の独占集荷体制は廃止された。

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百科事典マイペディア 「俵物」の意味・わかりやすい解説

俵物【たわらもの】

一般には俵詰にした米,水産物などを総称していうが,特に江戸時代長崎貿易で中国へ輸出された海産物のうち俵装したものをいい,煎(いり)ナマコ,干しアワビ,フカの鰭の3品。金・銀・銅の流出防止のため輸出された。コンブ,テングサ,するめ等は諸色(しょしき)と呼ばれた。
→関連項目隠岐国

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「俵物」の意味・わかりやすい解説

俵物
たわらもの

長崎では「ひょうもつ」といった。江戸時代,長崎から輸出した海産物。俵に詰めて輸出されたので,この称がある。初めは「いりなまこ」「乾あわび」の2品であったが,のち「ふかのひれ」を加えた。 17世紀末以来,長崎のおもな輸出品は銅であったが,18世紀なかばから銅が不足し対清貿易は俵物諸色 (しょしき) がこれに代った。幕府は各地に請負人を定め,長崎には俵物会所をおき,長崎町人に取扱わせたが,天明5 (1785) 年俵物請方を廃して俵物元役所を設け,役人を諸国に派遣して直接買入れを行なった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「俵物」の解説

俵物
たわらもの

江戸時代,長崎から輸出した食品原料の煎海鼠 (いりこ) ・干鮑 (ほしあわび) ・鱶鰭 (ふかのひれ) の3品の総称
俵詰めにしたのでその名があり,「ひょうもつ」とも読む。長崎貿易での輸出品の首位は銅であったが,生産減少のため幕府は1764年俵物輸出を奨励。田沼意次 (おきつぐ) は'85年俵物元役所を設け,産地の蝦夷 (えぞ) 地で直接集荷させて輸出につとめ,金銀を輸入した。

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世界大百科事典(旧版)内の俵物の言及

【三陸海岸】より

…産業面では世界四大漁場の一つに数えられる三陸沖を舞台にマグロ,カジキ,カツオ,サンマ,イカ,サバ,イワシなどの漁業が盛んである。また古くから〈俵物(たわらもの)〉として輸出された海産物の産地の一つで,アワビ,ワカメ,コンブ,ホタテガイなどの養殖漁業も発達している。宮古,釜石,気仙沼,女川は全国屈指の水揚高をもつ漁港で,設備も整っている。…

【抜荷】より

…例えば武器は1634年(寛永11)輸出は禁止され,外国貿易での抜荷にあたる。俵物三品(いりこ,干しアワビ,ふかのひれ)は1785年(天明5)長崎会所以外の者が生産者から買うことは禁止されたので,それ以外の者と取引するのは国内貿易での抜荷である。この場合および次の(2)の場合は抜買ともいった。…

※「俵物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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