おもに手紙で用いられた、文語体の文。現代「あります」と書く部分に「候」を用いるところに特徴がある。平安時代の語法を基にした文語文法に基づく文語体に、おりおり漢文体を交えた文体。第二次世界大戦終了以前までは、公的な文書をはじめ、いわゆる知識層の間での手紙文として広く用いられたが、1946年(昭和21)に公用文が口語体に改められ、私的な場面でも廃れてゆき、現在はほとんど用いられない。「候」は、動詞「さぶらふ」から転じた語で、謙譲の意を表す語から、ていねいの意を表す語に変化した語。平安時代は多く「侍(はべ)り」が用いられていたが、徐々に「候」の用いられる場合が増えてゆき、平安時代末期からはむしろ「候」が優勢となる。室町時代の初期に、手紙文の作法書『庭訓往来(ていきんおうらい)』が書かれ、以後のこの種の書物の模範となった。本書は、「候」を用いた文例が大幅に取り入れられたことから、「候文」は以後の手紙文の主流となった。「候」は本来、謙譲の意を示す語であったから、「候文」も目上相手に書かれるのが主であったが、使用範囲も広がり、目下の者への手紙にも用いられた。江戸時代の公文書に使われた場合もあり、その習慣が第二次大戦終了まで続いたのである。
[山口明穂]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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