文語体(読み)ぶんごたい

精選版 日本国語大辞典 「文語体」の意味・読み・例文・類語

ぶんご‐たい【文語体】

〘名〙 文語②で書かれる文章の形式。活用や助詞助動詞の用法に口語体と異なった特色がある。普通文を主とし、書簡文(候文)の形式を除くことがある。〔日本文体文字新論(1886)〕

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デジタル大辞泉 「文語体」の意味・読み・例文・類語

ぶんご‐たい【文語体】

文語2」を用いて書かれた文章形式。⇔口語体

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改訂新版 世界大百科事典 「文語体」の意味・わかりやすい解説

文語体 (ぶんごたい)

日本語の書きことばの一種。口語体に対立する概念。口語体が一般に広まったのは明治以後であるのに対し,文語体は上代から現代に至るまで長い期間にわたって用いられている。江戸時代以前は書きことばといえばもっぱらこの文語体をさしていた。文語文の根幹をなすものは,平安時代の日本語の文法,語彙(ごい)であり,ときに奈良時代のものをも交える。また,中世以降は後世の文法や語彙が混用されることもある。文語体と口語体とは,語彙,慣用語句の面でも相違があるが,もっとも大きな違いはその文法にある。文語体は,さらに多くの種類に分かれる。和文,和歌の文,宣命(せんみよう)体,漢文訓読文,和漢混淆(こんこう)文,変体漢文,普通文など。これらのうち,和文以下変体漢文までは,平安時代にすでにその形が整っており,以後現代にまで引き続き行われたものである。これらの諸文体は一様に文語文法にのっとって記されてはいるが,文法の細部の点で出入があり,また,語彙や慣用句の点で特徴を持つ。また,各文体は,それぞれ独自の表記法(漢字や仮名の用法)を持っているのが本来の形であった。すなわち,和文は平仮名,和漢混淆文は漢字片仮名交り,変体漢文はほとんど漢字ばかりで書かれるという類である。文語体は第2次世界大戦までは公用文,書簡文などに広く用いられたが,戦後はごくまれになった。

奈良時代から現代に至るまで用いられる。最古の例は正倉院文書中の天平宝字6年(762)ころの消息2通で,これはおもに1字1音式の万葉仮名で記されている。平安時代に入り,867年(貞観9)の讃岐国司解(さぬきのこくしげ)の巻首に記された藤原有年申文(ふじわらのありとしもうしぶみ)があり,これは草書体の万葉仮名を用いてある。ついで938年(承平8)の〈奝然(ちようねん)誕生記〉,同じころ記されたらしい紀貫之自筆本(定家臨模)《土左日記》,951年(天暦5)の醍醐寺五重塔落書などはいずれも流麗な平仮名で記されており,これらが年代の明らかな古い資料である。また平安中期以降の諸物語,日記の類,たとえば《竹取物語》《伊勢物語》《大和物語》《平仲物語》《宇津保物語》《三宝絵詞》《落窪物語》《源氏物語》《狭衣物語》《栄華物語》《大鏡》《土佐日記》《蜻蛉日記》《紫式部日記》《和泉式部日記》《更級日記》《枕草子》《浜松中納言物語》《とりかへばや物語》などは,すべて主として平仮名によって書かれたが,これらの文は概して平安時代当時の京都の貴族の間に用いられた日常語であり,当時としての〈口語文〉であったらしい。また私人の消息,ことに女性間または男女間に取りかわされた手紙の類も和文で,これも同じ性質の言語であった。中世以降,平安時代の物語文を模作した御伽(おとぎ)草子その他の文や,女房奉書など女性の書簡体の文はこの系統を引き,近くは明治初期樋口一葉その他の作家によっても用いられた。

記紀歌謡,《万葉集》などによって,奈良時代またはそれ以前の和歌の文体を知ることができる。本来,和歌と日常語との距離は,さほど遠いものではなかったであろうが,それでも少しばかりの隔たりはあったようで,その兆候はすでに奈良時代から見える。平安時代に入ってはだいたい平安語の文法に移ったが,部分的には奈良時代の文法も残している。平安前期の《古今集》はそれ以後の和歌の規範として仰がれ,文体,文法,語彙も《古今集》を継承するのが主流となった。部分的には《後撰集》《散木奇歌集》《夫木和歌抄》などのように特異な語彙を混用したものもあるが,大勢は平安中期の語調を後世まで墨守し,中世以後の口語は意識的に排除していた。江戸時代に復古主義による万葉調の和歌も作られたが,それらは上代語の要素を含んでいた。現代になって口語の和歌が興るまでは,和歌の文は平安時代の言語が基になっていた。中世以降生じた連歌,俳諧,発句,狂歌,川柳などは各時代の口語を多分に含んだものであった。上代の和歌はすべて万葉仮名で記されたが,平安時代以降もときに万葉仮名を用いることがあった。平安時代以後平仮名で記すことが起こり,これが後世まで和歌の表記法の標準となった。一方,片仮名ばかりで書くことも古くからあったらしく,醍醐寺五重塔落書のなかにもその例が見え,《堤中納言物語》にも記事があり,平安末期に全文片仮名で書写された和歌で現存するものも多い。また,漢字と片仮名とを混用した例も現れた。

祝詞(のりと)や宣命に用いられた文体で,古くから形式の固定していたものである。もとは漢字も万葉仮名も同じ大きさで記したらしいが,やがて漢字を大きく万葉仮名を小さく右に寄せて書く〈宣命書〉の形となった。この文体は古く奈良時代から存し,平安時代以後も長く伝統的な文体として後世に及び,中世以降の和漢混淆文の類に影響を及ぼした点もある。以上はだいたいにおいて固有の国語を主とした文体であるが,これに対して以下に述べる諸文体は漢文による影響を受けたものである。

漢文を訓読する際の言語である。これは全体としては日本語の文であるが,語彙には漢語が多く混じ,語法にも純粋の国語と一致しない点もある。この種の文体の最古の資料は,現存する平安初期の古訓点本で,以後多数の文献が残っている。その他,漢文の訓点を読み下した形のものとしては《枕草子》や《源氏物語》などの平安時代の仮名文学作品の中に引用された断片などが古いものだが,まとまったものとしては鎌倉時代の天理図書館蔵《釈迦如来念誦之次第》(全文片仮名),唐招提寺・足利市鑁阿(ばんな)寺等蔵《かながき法華経》,後宇多天皇自筆《仏説阿弥陀経》,安田文庫旧蔵《かながきろんご》(以上全文平仮名)などがある。この文体は,訓点本では原漢文の漢字に仮名や〈をこと点〉を書き加えて表記したが,書き下し文では全文片仮名または平仮名で書くものが多かった。この種の文体は平安時代の文法にもとづいているが,和文と比較すると,細部の点では,文法,語彙(漢語はもちろん,和語にも)などに多くの異なった点があって,独自の類型をなしていた。そして部分的には奈良時代の語彙や語法をも残しており,概していえば,平安時代において,和文は当時の口語体,漢文訓読文は当時の文語体だったといえる。中世以後,和漢混淆文に多く取り入れられ,また,江戸時代に至ると漢学者流はこの種の文体を多く用い,〈漢文直訳体〉などともいわれた。そして,明治時代の〈普通文〉の成立にも大きな力があった。

和文と漢文訓読文との混淆した文体の意である。広義に解すれば次の変体漢文などもこれに入り,また,仮名文学作品の中でも《竹取物語》《三宝絵詞》《宇津保物語》巻頭,《大鏡》などもこれに入るが,普通には中世以降の説話文や戦記文学にあらわれた文体をさしていう。平安初期以降の説教の草案,聞書,仏教歌謡などの中にも,この類に入るものがある。鎌倉時代ころまでは,漢字片仮名交り文であったが,後には平仮名交り文も生じた。後の御伽草子,江戸時代の戯曲,小説,随筆その他に大きな勢力を占めている。いわゆる雑文,俗文,俳文など,いずれもこの文体の系列に属するものである。

おもに漢字だけで表記した文で,形は漢文に似ているが,もっぱら日本語を表現したものである。古くは上代の金石文から,《古事記》《風土記》,平安時代以降の日記,記録などに用いられた。準漢文,和漢文,史部(ふひとべ)漢文などともいう。中世以後は幕府の公用文がこの文体で記され,ことに幕府の記録を集成した史書《東鑑(吾妻鏡)》がこの体であったので〈東鑑体〉ともいわれる。中世以後は,公用文のほか士人の書簡文,記録などにも用いられ,最も重要な文体となった。元来はすべて漢字だけで書かれたが,しだいに仮名を多く交えるようになった。書簡文の〈候文〉はこの流れである。

明治初年以来,漢文直訳体,和文体,その他の諸体が行われたが,それらを折衷し,広く一般に解せられる平易な文体が作られた。これが普通文とよばれるもので,第2次世界大戦のころまで標準的な文語文として行われた。漢字と片仮名または平仮名を混用して記されたが,この普通文に慣用された文法と中古の文法とは若干の隔たりがあったので,1905年2月,文部省は〈文法上許容スベキ事項〉を定めた。
文語
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百科事典マイペディア 「文語体」の意味・わかりやすい解説

文語体【ぶんごたい】

広義には,各時代において当代の口語の体系によらず,おもに前代の言語に基づく文章語の体系によって書かれる文章の様式をさすが,狭義には,主として平安中期の言語の体系に基づいて書かれる文章の様式をいう。用語・文体,表記法により,和文・漢文訓読文・和漢混淆(こんこう)文変体漢文・候(そうろう)文・普通文などに分類。文語体は第2次世界大戦までは公用文,書簡文などに広く用いられたが,戦後はごくまれになった。→口語体
→関連項目文語

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「文語体」の意味・わかりやすい解説

文語体
ぶんごたい

一般に,より古い時代の言語体系に基づく文章語の文体をさす。現代の日本語の文語体といえば口語体に対して,候文,普通文,擬古文,和漢混交文などの文体をいう。文語体で書かれた文章を文語文という。

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