催眠薬(読み)さいみんやく(英語表記)hypnotics

精選版 日本国語大辞典 「催眠薬」の意味・読み・例文・類語

さいみん‐やく【催眠薬】

〘名〙 =さいみんざい(催眠剤)〔医語類聚(1872)〕

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デジタル大辞泉 「催眠薬」の意味・読み・例文・類語

さいみん‐やく【催眠薬】

眠りを誘発する薬。不眠症の治療に用いる。20世紀半ばまでブロム剤バルビツール酸系の薬剤が使用されていたが、中毒や依存などの問題があり、1960年代以降は抗不安薬のベンゾジアゼピン系の薬剤が広く使われている。トリアゾラムはベンゾジアゼピン系催眠剤の一つ。眠り薬睡眠薬睡眠導入剤睡眠障害改善剤。催眠剤。催眠鎮静剤。入眠剤。
[類語]眠り薬

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改訂新版 世界大百科事典 「催眠薬」の意味・わかりやすい解説

催眠薬 (さいみんやく)
hypnotics

中枢神経系の機能を低下させて睡眠につかせるか,あるいは強制的に一定時間眠らせるような薬物をいう。いわゆる〈眠り薬〉で,睡眠薬ともいう。催眠薬はバルビツレートと非バルビツレート催眠薬に大別される。

バルビツール酸類ともいう。バルビツール酸はマロ

ン酸CH2(COOH)2と尿素CO(NH22の結合した化合物であって,5位のHが種々の基と置換されている。バルビツール酸は下のような平衡を保っていて酸性を呈し,ナトリウム塩やカルシウム塩を形成する。

 バルビツレートは,(1)長時間型(バルビタールフェノバルビタールなど),(2)中間型(アロバルビタール,アモバルビタールなど),(3)短時間型(ペントバルビタール,シクロバルビタールなど)および(4)超短時間型(ヘキソバルビタール,チオペンタールなど)に分けられる。

 バルビツレートは中枢神経系その他に次のような作用をもつ。まず中枢神経系に対しては,低用量では大脳皮質の感覚野の抑制が現れ鎮痛を伴わない鎮静作用がある。増量するにしたがい大脳皮質の運動野の抑制,ついで鎮静,さらに催眠を起こす用量では,脳幹網様体上向賦活系および視床にも抑制的に作用するが,中枢神経系に対する作用範囲は広い。その他の作用としては,通常の催眠量の内服によっては顕著な循環系作用を示さないが,鎮静,催眠時に,自然睡眠におけると同程度の軽い血圧下降と徐脈がみられ,末梢血管平滑筋に直接作用して血管を拡張する。薬用量では,心筋に対して抑制作用を現し,消化管に対しては抑制の傾向がみられる。バルビツレートは,消化管からよく吸収され,未変化で尿に排出されるほか,肝臓においていくつかの経路で代謝される。長時間型のバルビタールはほとんどが未変化のまま数日間かかって尿中に排出され,フェノバルビタールの排出もおそらく約20%が未変化のまま排出される。短時間型バルビツレートの代謝は速く,超短時間型のチオバルビツレートは,脂肪組織に速やかに沈着し,後に徐々に肝臓で分解される。バルビツレートはその代謝に関与する酵素の活性を高め,これが耐性の一因となっている。バルビツレートは,(1)不眠症(催眠薬として),(2)興奮,不安(鎮静薬として),(3)てんかん(フェノバルビタールを抗てんかん薬として),(4)全身麻酔(静注麻酔として)に適用されるが,肝臓,腎臓に疾患のある患者では,その代謝,排出が異常であるので注意しなければならない。また過量(薬用量の5~10倍)に用いると,重篤な中枢神経系の抑制をひき起こし,昏睡,呼吸停止に至る。応急処置としては,胃洗浄,人工呼吸,保温,酸素呼吸を行う。体液中の薬物を希釈し,尿の酸性化を防ぐためにリンゲル注射をも行う。慢性中毒としては,食欲不振,吐き気,便秘,薬疹がある。薬物依存性があって,離脱期にせん妄や痙攣けいれん発作などの禁断症状が現れることもある。

非バルビツレート催眠薬には次のようなものがある。(1)ベンゾジアゼピン類 ニトラゼパムとフルラゼパム,エスタゾラムなどが用いられる。大量服用しても生命に危険が生じない。また,離脱期にせん妄などの症状はないといわれる。もともとベンゾジアゼピン類は抗不安薬として開発されたものであるが,睡眠誘導薬としての評価が高まっており,バルビツレート系催眠薬に代わってよく用いられるようになっている。

(2)抱水クロラール 1832年J.F.vonリービヒによって合成され,69年に初めて使われた。最も古い催眠薬で,バルビツレート以前にはよく用いられた。当初は抱水クロラールは体内でクロロホルムに変化して作用するものと考えられていたが,実際はトリクロルエタノールCCl3・CH2・OHに変化し,これが催眠作用を発揮する。抱水クロラールは肝臓でグルクロン酸と抱合する。作用発現が速やかで内服後15~30分で就眠し,翌日不快,眠気を残さない。副作用は胃刺激。まれに一過性の肝臓障害,腎臓障害がある。

(3)脂肪酸ウレイド ブロムワレリル尿素がこれに属するおもな薬物で,鎮静作用と弱い催眠作用をもつ。0.5g内服で20~30分後には作用が現れ,3~5時間で消失する。解熱・鎮痛薬に併用される。まれに発疹,大量で呼吸抑制,非常に大量で吐き気,嘔吐,昏睡がある。耐性は増大する。

(4)ピペリジンジオン誘導体 グルテチマイド,メチプリロンなどがあり,バルビツレートのもつ薬物依存性がないことを期待して作られた催眠薬であるが,薬物依存性はある。短時間型の緩和な催眠作用があり,少量では鎮静効果を示す。副作用は弱いが頭痛,吐き気がある。

(5)スルホナール 持続性催眠薬。バルビツレート以前に使用されているが,現在は特殊な場合以外には使わない。安全域が小さく,排出が遅い。精神科疾患に1回0.5g。



 自然の眠りと催眠薬による眠りとが同じでないことは,木にとまって眠っていても木から落ちない鳥が,催眠薬投与によっては木にとまっていることができなくなることからも明らかである。また多くの催眠薬は薬物依存を起こすので,他の方法で就眠できるような場合にはみだりに用いるべきではない。しかし,現代社会では刺激が多くて諸原因により不眠が起こり,それが不安へつながる悪循環もあるので,上手に催眠薬を使うほうがよい場合もある。
睡眠
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百科事典マイペディア 「催眠薬」の意味・わかりやすい解説

催眠薬【さいみんやく】

眠り薬,睡眠薬とも。中枢神経系の機能を抑制して睡眠状態を誘発する薬物の総称。作用部位により分類すると,1.大脳皮質を麻痺(まひ)して脳睡眠を誘発するもの(皮質性催眠剤)。ブロムワレリル尿素など。2.脳幹に作用し自律神経中枢を鎮静して体睡眠を起こし漸次脳睡眠に移行するもの(脳幹性催眠剤)。アモバルビタール,フェノバルビタールなどのバルビツール酸類がある。作用の特徴により速効型,持続型に,使用上の便宜から就眠剤,睡眠剤,熟眠剤にも分類される。副作用としては習慣性のあるものが多く,慢性中毒では全身倦怠(けんたい),幻覚などの症状がある。
→関連項目持続睡眠療法不眠症

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世界大百科事典(旧版)内の催眠薬の言及

【鎮静薬】より

…緊張と不安を解き,また就寝時に眠りやすくするために用いる薬物の総称。大脳皮質を軽度に抑制すれば目的が達せられるので,通常,バルビツレート,抱水クロラール,ブロムワレリル尿素,グルテチマイド,メチプリロンなどの催眠薬が用量を減少して鎮静薬として用いられる。最近では,図のような薬物よりもベンゾジアゼピン系抗不安薬(クロルジアゼポキシド,ジアゼパム,ニトラゼパム,フルラゼパムなど)が鎮静の目的で用いられる。…

※「催眠薬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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