一般的には、文化の中心である都市から遠く離れた辺境の土地を僻地といい、僻地教育はそこでの教育ということになるが、教育において僻地教育を論じる場合には、「へき地教育振興法」(昭和29年法律143号)に基づく「へき地における教育」および「へき地学校」の教育をいう。
同法では「へき地学校」を「交通条件及び自然的、経済的、文化的諸条件に恵まれない山間地、離島その他の地域に所在する公立の小学校及び中学校」(2条)と規定し、都道府県条例の定める「へき地学校」ならびに「これに準ずる学校」を振興し、それによって僻地における教育水準の向上を企図している。「へき地学校」には、僻地性の度合いを示す基準点数と付加点数の合計により、低いものから準、一級、二級、三級、四級、五級の級別があり、小・中学校の約20%は「へき地学校」である。その数は年々減少しているが、このことは僻地がなくなり、「へき地学校」の教育問題が解消しつつあることを意味しない。「へき地学校」と指定されていなくとも、また基準点数、付加点数の合計が減って、「へき地学校」から外れても、僻地性の強い地域社会を基盤にもつ学校は存在している。僻地社会の特性としては、僻遠性、文化的沈滞性、経済的貧困性、社会的封鎖性、教育的低調性などがあげられている。
[岩下新太郎]
僻地の多くの学校が、以下の5点
(1)自ら進んで物事に取り組んでいく自主的、積極的、創造的な態度
(2)どこまでも見極め、筋道をたてて思考し、理解し、納得するといった合理的、批判的な思考力や態度
(3)進んで発表でき、すなおに自分の考えを表現できるというような豊かな表現力
(4)話し合い、理解し合い、他人の意見も謙虚に取り入れるなどの寛容で協力的な明るい人間関係
(5)健康教育の推進など
を教育目標としてあげている。
これらの教育目標は、僻地の状況や児童・生徒の実態を見つめ、子供の将来の幸福や地域の発展を願う気持から生まれたもの、すなわち、僻地の教育課題に応えるばかりでなく、そのまま僻地を越えて現代教育の特質に対応する教育目標でもあることはきわめて重要である。僻地学校については、施設・設備の充実、教員人事の適正化、教員の勤務改善、研修条件の確立、複式学級の解消、指導方法の開発などがつねに問題となるが、地域の教育課題への主体的取り組みなしには、僻地学校、僻地の教育は成功を期待できない。
[岩下新太郎]
ひとくちに「へき地学校」といっても、その実態は千差万別である。僻地教育に特有のさまざまな問題を抱え込んでいる場合もあるが、逆に、通常の学校では行われにくい、長い時間をかけて培われた関係者たちによるきめの細かい協力体制に支えられ、前掲の僻地教育の目標の多くを、みごとに達成した夢のような学校もある。「へき地学校」は、「へき地教育振興法」のほかにも、さまざまな制度、たとえば「過疎地域対策緊急措置法」や「過疎地域振興特別措置法」などによって支えられている。しかし、これら制度的支えと教育関係者たちの主体的取り組みがうまくかみ合わなければ、統廃合の対象となる。
廃校後、その学校施設が生涯学習施設に転用される場合もあるが、かつてその学校がもっていた地域社会の求心力を引き継ぐことができなければ、地域社会そのものが崩壊し、集団移住を余儀なくされることにもなる。
高度経済成長政策により、農村から大都市へと人口が大量に流れ、過疎(山間地、離島)と過密(大都市)の落差が広がったが、近年は過密のなかに過疎が生じ、その両極に文化的沈滞性、経済的貧困性、社会的封鎖性、教育低調性という「へき地社会」の要素が現れることがある。教育行政において、教育の質を吟味するのは、消費者つまり児童・生徒、そして親・地域住民である。市場原理に依拠した民主主義社会が抱えるさまざまなパラドックス(矛盾)をどう解きほぐすのか、僻地教育は、はからずも教育問題のひとつの実験場となっている。
[木村力雄]
『重松俊明編著『変動期の社会と教育』(1970・黎明書房)』▽『上滝孝治郎他編著『過疎・過密、へき地の教育』(1975・民衆社)』▽『溝口謙三著『教育のへき地』(NHKブックス)』
交通条件および自然的・経済的・文化的条件に恵まれない山間部や離島などの僻地で行われる教育活動の総称。その中心となる僻地学校は,文部省令で定めた基準に従い都道府県条例によって〈へき地等指定学校〉に指定されている。1983年5月の時点では,小学校は5028校(全国小学校数の20.1%,在籍児童数約31万3000人),中学校は1672校(15.3%,約13万1000人)となっていた。その後,学校の統廃合や交通条件の改善などで指定校は減少しているが,僻地の生活条件や教育環境の問題を背負ったままというのが実情である。僻地教育への対策として1954年の〈へき地教育振興法〉は,市町村に対しては教材教具の整備,教職員の住宅の建築,通学援助措置などを,都道府県に対しては学習指導や教材研究,教員養成,教職員定数の優遇や僻地手当の支給などを,さらに国に対してはそれらに要する経費の2分の1を補助することなどを規定した。しかし僻地教育の問題は,たんに物的な補助を充実させれば発展をみるという性格のものではない。近年の極端な過疎化現象による児童生徒数の減少とそれに伴う複式学級編制は,発達段階に即した集団的学習を困難にしており,学校統廃合からは遠距離通学や寄宿舎の設置による家庭教育との遊離など,新たな問題が生まれている。教員にとっても教科・校務の重複担当や研修機会の不足など問題は多い。さらに情報メディアの発達による画一的な文化の浸透の下で,住民がその地域の産業と生活に自信をもって自立的な発展方向をえがくことが困難になっており,子どもに生活と学習への主体的な意欲をよびおこす地域や家庭の教育力の低下が指摘されている。僻地教育の振興は,僻地の産業と文化そのものの振興の方向を明らかにするなかですすめることが必要であろう。
執筆者:島田 修一
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