光弾性(ひかりだんせい)ともいう。等方で等質な透明物体に外力を加えて応力状態下におくと,この物体は等方性を失って複屈折性を示す光学的異方体になる。この現象は光弾性効果と呼ばれ,1816年イギリスの物理学者ブルースターDavid Brewster(1781-1868)によって見いだされた。この光弾性効果に基づいて,弾性体内の応力分布に対応した複屈折の効果を光学的に測定して応力を解析しようとする実験的方法が光弾性試験で,これを単に光弾性と呼ぶ場合が多い。また光弾性効果のことを光弾性ということもある。光弾性は実物そのものでなく透明物質で作ったモデルを用いて応力解析を行ういわゆるモデル実験であるが,一般に,平面応力状態に対しては特殊な例を除いて応力分布は形状のみに依存するので,材質が異なっていても形状が相似であれば応力分布は同じになる。光弾性が工学的に利用されるようになったのは20世紀に入ってからで,使用するモデル材料もガラスからセルロイドへ,さらにベークライトを経て今日では実験に最も適したエポキシ樹脂が広く用いられている。
各種光弾性の基本となる平面光弾性の原理について説明する。2主応力σ1とσ2で表される平面応力状態の板状モデルを,図1に示すような互いに偏光軸が直交する偏光子P1と検光子P2の間に挿入し(直交平面偏光器),これに単色光(あるいは白色光)を入射する。単色光は偏光子P1によって平面偏光となってモデルに入射する。モデルの中では光弾性効果によって,それぞれσ1およびσ2の方向に振動する二つの平面偏光に分かれて進むが,方向によってその速度が異なるため,モデルを出たとき両者には光路差が生じており,これをさらに検光子P2を通して合成すると,干渉作用によって明暗の縞模様(光弾性縞図という。白色光を用いた場合は色づく)が生ずる。単色光を入射した場合のP2を出た光の強さIは,
I=I0sin22φsin2πN
で与えられる。ここで,I0は入射単色光の強さ,φはσ1とP1の偏光軸とのなす角であり,Nは縞次数と呼ばれ,モデル材料の種類,使用単色光の波長,温度によって決まる定数(応力感度)をα,光路程(板の厚さ)をtとして,N=αt(σ1-σ2)の関係がある。この式から,光弾性縞図でI=0,すなわち暗線は,φ=0°,±90°,……の軌跡(等傾線という)とN=0,1,2,……の軌跡(等色線という)となって現れることが分かる。前者からは主応力の作用方向が決定され,後者からはσ1-σ2の値が求まる。なお,φとσ1-σ2の測定値から主応力の単独値σ1,σ2を分離するための方法も種々考えられている。一方,実用的には,モデルの周辺での応力値(最大主応力値)が最も必要であること,および等傾線と等色線の重畳した縞図は複雑で両者の識別が困難なことなどの理由から,さらに2枚の4分の1波長板を付加して(それらの主軸をP1,P2と45度傾ける),モデルへの入射光を円偏光にすることによって等傾線を消失させ,等色線だけを現出させる光学系(直交円偏光器)が広く用いられる。このときはI=I0sin2πNの関係が成立する。
三次元物体の応力を調べる三次元光弾性には通常応力凍結法が用いられる。三次元モデルに負荷を加えたまま,そのモデル材料に特有な温度(凍結温度)まで加熱してゴム状弾性時の応力状態とし,負荷したままこれを室温まで徐冷すると,負荷を取り除いても応力状態がモデル内に凍結され,その後このモデルを薄くスライスしてもその状態が保存される。したがって,適当な方位に切断したスライスを平面光弾性と同じ手法で実験を行い,各結果を接続すれば三次元の応力解析が可能になる。この方法は,高温時の凍結応力を解析しているという点で精度が平面光弾性に比べて劣るものの,現在広く用いられているものである。三次元光弾性における応力状態と縞次数との関係は,平面光弾性の基礎式を拡張した次式で与えられる。
Ni=αti(σ1′-σ2′)i
ただし,Niはi方向に光を入射したときの縞次数,tiはi方向の光路程,(σ1′-σ2′)iはi方向に垂直な平面を平面応力面としたときの見かけの主応力差(有効二次主応力または二次主応力という)である。応力凍結法のように凍結後のモデルをスライスすることなく,三次元モデルに直接負荷し,非破壊的に応力分布を測定する方法に散乱光弾性がある。これは,偏光を光層(ビームの集合)として負荷モデル内を通過させ,応力状態に対応した散乱縞からモデル内の応力を解析するもので,取扱いはかなりやっかいであるが,特別な問題,例えばねじり応力の解析にはきわめて有効である。欠点は,散乱光が微弱なため,強力な光源を必要とすることである。上記以外の特殊な光弾性として,金属モデルに光弾性皮膜を貼りつけ,モデルに生ずる弾性あるいは塑性変形を皮膜に伝達し,金属表面による反射光が皮膜を通過するときに生ずる光弾性縞次数を基に金属モデルの弾塑性応力を実験的に測定する光弾塑性(光弾性皮膜法),流体内の圧力を光弾性効果で実測しようとする光流性,さらに温度や時間に依存する粘弾性体の応力やひずみの解析を目的とする光粘弾性などがあり,いずれも光弾性の原理の応用である。
→応力
執筆者:国尾 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
透明なプラスチックやガラスは、通常の状態では光に対して複屈折を示さないが、これに外力を加えひずませると、このひずみに応じて複屈折を示すようになる。この現象を光弾性という。この複屈折は主応力の差に比例し(ブルースターの法則)、その比をその物質の光弾性定数という。
に示すように、このような物体に円偏光子(偏光子と四分の一(しぶんのいち)波長板を組み合わせたもの)を通して円偏光になった光を入射し、出てきた光を円検光子(四分の一波長波と検光子を組み合わせたもの)を通して物体の像を見ると、物体のひずみによる複屈折のために干渉縞(じま)が見える。この干渉縞のパターンから物体中の応力の分布がわかる。この方法は1816年にブルースターによって創案された。構造物や機械部品などに力が加わったとき、どのような応力の分布が生ずるかを調べることは設計上きわめて重要であり、構造物などの模型を光弾性材料でつくって、その応力分布を実験的に調べることができる。
[和田八三久]
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…光弾性(ひかりだんせい)ともいう。等方で等質な透明物体に外力を加えて応力状態下におくと,この物体は等方性を失って複屈折性を示す光学的異方体になる。…
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[応力の測定法]
物体内で応力が一様に分布することがわかっている場合,例えば引張試験では物体に作用する外力を測れば,(外力)/(物体の断面積)で応力が求められる。応力分布があらかじめ予測できない場合には光弾性を利用した測定法が有効である。これはガラスやエポキシ樹脂などの材料に応力が作用しているとき,そこを通過する光の偏光面が回転する性質を利用したもので,光の干渉により生ずる干渉縞の分布から応力の分布や大きさを解析する。…
※「光弾性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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