複屈折(読み)フククッセツ(その他表記)double refraction

デジタル大辞泉 「複屈折」の意味・読み・例文・類語

ふく‐くっせつ【複屈折】

光が媒質中に入射するとき、二つに分かれて屈折する現象。光学的異方性をもつ方解石水晶などでみられる。

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精選版 日本国語大辞典 「複屈折」の意味・読み・例文・類語

ふく‐くっせつ【複屈折】

  1. 〘 名詞 〙 光が光学的に異方的な結晶や、ひずみをうけた媒質中に入射するとき、二つに分かれて屈折する現象。方解石や水晶などに見られる。〔物理学術語和英仏独対訳字書(1888)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「複屈折」の意味・わかりやすい解説

複屈折 (ふくくっせつ)
double refraction

光に対して異方的な物質に光が入射したとき,一般に二つの屈折光が現れる現象。方解石を通してものを見ると二重に見えるが,これは複屈折のためである。1669年E.バルトリヌスがこの現象の存在を公表し,彼自身を含めC.ホイヘンス,ニュートンらがその解明を試みたが,最終的にはA.J.フレネルが光を横波と考えればすべてがうまく説明できることを示した。

 光に対して異方的な媒質中で波として同じ進行方向の光でも,その偏光の向き,すなわち光の電場の方向によって位相速度とエネルギーの伝わる方向とが異なる。波の等位相面に垂直な方向を波面法線方向というが,異方的媒質中では電場と電束密度とが平行でないため,磁場と電束密度とに垂直に波面法線があり,これとは異なる磁場と電場とに垂直な方向に光のエネルギーが伝わる。光のエネルギーが伝わる方向を光線方向というとき,一般に波面法線と光線との方向は一致しない。同じ波面法線で互いに直交する二つの偏光は,異なる位相速度,異なる光線方向をもつ。このような媒質に光を入射すると光は二つの偏光に分かれ,それぞれ別の光線方向をとる。目には光のエネルギーの伝わる方向,すなわち光線方向が見えるので,媒質内で光が2本となって見えるのである。等方的な物質に電場や応力を加えれば光に対して異方的媒質となる。対称性の低い結晶なども異方的媒質である。これらは単軸結晶と二軸結晶とに分類される。単軸結晶では二つの偏光の位相速度の一致する波面法線方向が一つあり,これを光学軸という。光学軸と波面法線とがなす平面内に電場のある偏光は常光線と呼ばれ,スネルの法則を満たすように屈折する。これに垂直な偏光は異常光線と呼ばれ,方向によって位相速度,したがって屈折率が変化し,一見スネル法則を満たさぬような屈折をする。常光線の位相速度が異常光線のそれより大きいものを正結晶といい,これに属する結晶は水晶や氷などである。常光線の位相速度の小さいものを負結晶といい,方解石などがこれに属する。二軸結晶は光学軸を2本もち,二つの光線とも異常光線のようにふるまう。雲母などがこれに属する。

 複屈折の応用として,偏光によって屈折率の異なることを利用して一つの偏光のみを取り出せるようにしたニコルプリズムなどの偏光子がある。また,相互に直交した二つの偏光の位相差を変えることを目的とする結晶板や,それの波長依存性を利用した複屈折フィルターなどが作られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「複屈折」の意味・わかりやすい解説

複屈折
ふくくっせつ
double refraction
birefringence

光を非等方性の媒質に入射させたとき、偏光方向の違いにより二つの屈折光線を生じる現象。白紙の上に赤い点を1個描き、この上に方解石の単結晶をのせて上方から見ると、赤い点が2個になって見える。これが複屈折である。一方はもともとの紙面に描かれた位置にあるが、もう一方の点はそれからずれて見える。紙面にのせたままで方解石を回転させると、紙面上の点の位置に一致している赤い点はそのままであるが、もう一方の赤い点は前者を中心とした円周上を移動し、方解石が一回りすると元の位置に戻る。このもう一方の点は、紙面上の赤い点から出た光線が方解石内で異常な屈折をして上方に出てきたために生じたものである。このような光線を異常光線という。これに対し、元の点に一致するように進んでくる光線を常光線という。方解石の複屈折現象は1669年にデンマークのバルトリヌスErasmus Bartholinus(1625―1698)により初めて報告され、これを契機として光の本質についての研究が目覚ましく発展した。パリの学士院も、複屈折を数学的に説明する論文を賞金付きで募集した。複屈折の研究は、のちにフレネル、アラゴによる偏光の発見、光の横波説の提唱へとつながっていく。

[石黒浩三・久我隆弘]

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百科事典マイペディア 「複屈折」の意味・わかりやすい解説

複屈折【ふくくっせつ】

光が光学的異方性の物質中に入ると振動方向が互いに直角な二つの平面偏光に分かれ,それぞれ屈折率は相異なる。この現象を複屈折といい,方解石を通して物が2重に見える現象としてよく知られる。すべての光学的異方体において(光軸方向以外では)複屈折が起こるが,方解石ほど著しくないので,肉眼では認めがたい。→カー効果
→関連項目干渉色屈折結晶光学光軸光弾性ニコルプリズム偏光偏光顕微鏡偏光子偏光プリズム

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「複屈折」の意味・わかりやすい解説

複屈折
ふくくっせつ
double refraction; birefringence

方解石の結晶などのような光学的異方体に光が入射したとき,屈折光が2つに分れる現象。一般に2つの屈折光はどちらも直線偏光で,偏光面は互いに垂直である。複屈折を示す結晶には単軸結晶と双軸結晶とがあり,単軸結晶では2つの屈折光のうち,1つは常光線で,普通の等方性結晶における屈折の法則が成立するが,もう1つの異常光線では成立しない。双軸結晶では両光線とも異常光線である。

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栄養・生化学辞典 「複屈折」の解説

複屈折

 光学的に異方性のある物質に光が入射すると,二つの屈折光が現れる現象をいう.方解石の板を通して物質をみると二重にみえるのは,この現象のため.

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世界大百科事典(旧版)内の複屈折の言及

【屈折】より

…この場合,それぞれの速さに対する屈折率が違うので,一定の入射角で入射した光はこの物質の中で二つの異なる方向に伝わることになる。この現象を複屈折という。 レンズは光学ガラスの表面での光の屈折を利用したものであり,光を集める目的や,画像の投影などに広く用いられている。…

【結晶光学】より

…結晶内における光の伝わる状態,あるいは結晶の表面からの反射光の状態などを研究する光学の一部門。 1669年,デンマークの物理学者バルトリヌスE.Bartholinus(1625‐98)は,細い1本の光線を氷晶石の結晶に入れると,屈折光線が二つに分かれること(複屈折)を見いだした。次いでオランダのC.ホイヘンスは,二つに分かれたこれらの光の振動方向が,かたよっていること(偏光)を見いだした。…

【光】より

…彼の理論はホイヘンスの原理に数学的な証明を与え,光の直進,回折などの現象を波動説によって完全に説明するものであった。色偏光や複屈折についてはすぐには説明できなかったが,これも光を横波と考えれば理解できることがフレネルによって示された(1821)。そして1850年,J.B.L.フーコーが,波動説から得られる帰結どおり,水中の光の速さが空気中よりも遅くなることを実験によって明らかにし,波動説に確定的な証拠を与えたのである。…

※「複屈折」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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