児童労働年少労働(読み)じどうろうどうねんしょうろうどう

改訂新版 世界大百科事典 「児童労働年少労働」の意味・わかりやすい解説

児童労働・年少労働 (じどうろうどうねんしょうろうどう)

広義には,心身がなお未成熟の成長段階にある者の労働児童労働成人するになお至らない者の労働を年少労働という。いっそう限定された意味においては,工場法・労働基準法などの労働者保護立法によって雇用を禁止される特定の年齢未満の者の労働を児童労働,いっそう年長ではあるが,成人男子とは区別されてとくにつよく労働時間などを規制される特定の年齢未満の者の労働を年少労働という。

 児童労働,年少労働は歴史上古くからみられたのであるが,それが社会問題として注目され,国家によって規制されるようになるのは,産業革命以降のことである。機械制大工業の成立によって成人男子労働者に代わって婦人,年少者,児童などの不熟練かつ低賃金の労働者が多く雇用されるようになり,また雇用される者の年齢もしだいに低くなっていった。彼らは使用者に組織的に対抗する手段をもたなかったので,その労働諸条件は急速に悪化していった。長時間労働,深夜労働,不衛生(高温多湿採光・通風不全,空気汚染騒音など),被災の危険,諸施設の不備,監督者による虐待などが一般にみられた。日本ではさらに親への前貸しによる子女の雇用,不衛生な拘禁的寄宿舎制度が加わった。これらの劣悪な労働状態のために過労罹病罹災無気力,無教育,風紀紊乱(びんらん)などが生じ,児童・年少者の成長が心身ともに著しく妨げられた。この状態は機械を採用した大工場においてだけでなく,不利な競争関係にたつ中小工場にも生じたし,鉱業商業など工場外の事業所においてもみられた。

 初期には公衆衛生的・教育的見地から,のちには労働力保全の産業政策的な見地から,ドイツや日本ではさらに壮丁確保という軍事的見地から,児童労働の禁止,年少労働への保護の必要が叫ばれるようになった。まずイギリスが19世紀初めからしだいにその基準を高め,範囲を拡大させつつ工場法によって規制するようになり,ついで他の工業諸国がこれにならった。日本では《職工事情》(1903)によって実態が明らかにされ,1911年に工場法が制定され(1916施行),最低雇用年齢12歳,1日11時間労働を原則とした。国際的にはILOが19年の第1回総会において14歳未満の児童の雇用禁止,婦人・年少者の深夜就業禁止を決議している。第2次大戦後は各工業国とも児童・年少者保護の水準を著しく高め,日本でも工場法に代わって労働基準法が制定され,15歳未満の児童の雇用が禁止された。しかし,発展途上国においては問題はなお深刻である。
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労働基準法では成人に達しない未成年者の労働のことを年少労働といい,そのうち15歳未満の者の労働を児童労働という。これらには女子労働と同様に以下のような特別な保護を与えている。(1)15歳未満の児童は労働者として使用してはならない(労働基準法56条)。これは,児童と使用者が労働契約を締結することを禁じるだけでなく,現実に使用者の指揮命令のもとで働かせることも禁じている。しかし非工業的事業で,児童の健康,福祉に有害でなく,かつ軽易な労働の場合には,所管の労働基準監督署長の許可を受けて,満12歳以上の児童を修学時間外に使用することができる。さらに,映画の製作や演劇の事業については,満12歳に満たない児童を使用することができる(56条)。これは映画や演劇で子役が必要なことを考慮したものであるが,これにも労働基準監督署長の許可が必要である。これらの児童の使用者は,修学にさしつかえないことを証明する学校長の証明書と,親権者または後見人の同意書を事業場に備えつけなければならない。さらに,これらの児童も含めて18歳未満の者を使用するときは,年齢を証明する戸籍証明書も備えつけなければならない(57条)。(2)親権者または後見人が,未成年者に代わって労働契約を締結することを禁止している。これは,親が子を食いものにして,未成年者の保護に欠ける場合があることを考慮して設けられたものである。したがって,未成年者は親権者または後見人の同意を得てみずから労働契約を締結することだけが認められている。その労働契約を履行中に,未成年者に不利であると認められる場合,未成年者自身が労働契約を解除できるのは当然であるが,そのほかに親権者または後見人または労働基準監督署長が,将来に向かって労働契約を解除することができる(58条)。(3)未成年者は独立して賃金を請求することができ,親権者または後見人が未成年者を代理して賃金を受け取ることが禁止されている(59条)。(4)年少労働者の労働時間に制限が設けられている。18歳未満の年少者は,原則として変形8時間労働,時間外労働や休日労働が認められず,さらに深夜業も禁止されている。ただし交替制を採用しているときは16歳以上の男子はこの限りでない。(5)女子と同様に,18歳未満の年少者は危険有害業務への就労が制限され,さらに坑内労働が禁止されている(63,64条)。(6)18歳未満の者が解雇の日から14日以内に帰郷するときは旅費が支給される(68条)。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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