日本の産業資本主義確立期の工場労働者状態についての調査報告書で,農商務省商工局により1903年3月刊行。全5巻。農商務省は,工場法案作成の基礎作業として1900年に臨時工場調査掛を設け,内務省参事官窪田静太郎を同掛主任に任命,調査にあたらせた。桑田熊蔵,広部周助,久保無二雄,横山源之助ら各方面の専門家が協力した。調査は紡績,製糸,織物の3業種を主とし,さらに鉄工など13業種に及んでいる。報告は業種ごとにまとめられ,さらに聞きとりや資料が付録として加えられた。本書により工場労働者の過酷な労働実態が余すところなく明らかにされ,工場主や自由主義経済学者の工場法不用論・有害論を色あせたものとした。なお,この調査に基づき02年に〈工場調査要領〉がまとめられ,それを基礎に〈工場法案ノ要領〉が示されたが,ここにおいて日本的な工場法理念は確立し,工場法制定への道が開かれた。《職工事情》およびそれと関連する諸文献は,当時の労働者状態,労働政策構想に関する古典的な文献である。
執筆者:池田 信
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1903年(明治36)農商務省工務局が刊行した労働事情調査報告書。同省は1900年に臨時工場調査係を置き、工場法案立案の基礎資料を作成するため、02年から翌年にかけて各種工場の実態調査を行った。調査は、当時の支配的産業である綿糸紡績、製糸、織物のほか、鉄工、ガラス、セメント、マッチ、印刷、製綿、組物、電球、マッチ軸木、刷子(ブラシ)、花莚(かえん)、麦稈真田(ばっかんさなだ)の各工業にわたっている。その内容は、職工の男女比、年齢層、労働時間、休日、雇用方法、賃金および貯金、賞罰、工場や寄宿舎の衛生状態、住居、風紀、共済制度などである。また付録として、当時新聞で盛んに取り上げられた女工の募集、誘拐、虐待などの問題に関する工場調査係からの諸府県への照会と回答、さらに工場主、女工、口入れ業者などの談話が収められている。この調査は政府が行ったものだが、横山源之助『日本之下層社会』とともに、資本主義確立期における過酷な労働事情を詳細に伝え、その劣悪さを指摘した。とくに紡績や製糸の女工の談話は、当時の非人道的な労働条件を余すところなく伝える証言となっている。
[大木基子]
『農商務省商工局編、土屋喬雄校閲『職工事情』(1976・新紀元社)』
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日本の産業革命期における工場労働者の実態調査報告書。全5巻。日清戦争後工場法論議がおこるなかで,政府が農商務省商工局内に臨時工場調査掛をおいて進めた全国各工業工場の調査のうち,工場労働事情の部分を1903年(明治36)に刊行。綿糸紡績,生糸・織物,鉄工・ガラス・セメント・マッチ・タバコ・印刷・製綿・組物・電球・マッチ軸木・ブラシ・花筵(むしろ)・麦稈真田(ばっかんさなだ)部門の職工の種類,労働時間,賃金などの雇用条件を記録。付録として女工の虐待事例をはじめ過酷な労働実態を赤裸々に報告し,第2次大戦前の官庁資料としては例外的な第一級の調査資料で,戦後になってようやく利用できるようになった。
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…器械製糸による生産量は94年に座繰製糸のそれを凌駕するが,座繰製糸のほうも組合製糸などの形で仕上工程を集中しつつ存続しており,その衰退は1910年代以降のことである。器械製糸場では各地の小作貧農層から出稼ぎに来た未婚の女工たちが長時間労働を強いられており,《職工事情》によれば1901年当時の諏訪地方の労働時間は〈決シテ十三四時間ヲ降ルコトナク長キハ十七八時間ニ達セル〉ありさまであった。彼女らは寄宿舎で全生活を管理され,平均繰糸成績を得た者に標準日給を与え,成績の上下によって日給に大きな格差をつけるという等級賃金制によって,長時間緊張した労働を余儀なくされた。…
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