所定労働時間を超えて行われる労働のことで、超過勤務ともいう。早出、残業、休日出勤などがこれに含まれる。これには、労働基準法(昭和22年法律49号)第32条によって規制された法定労働時間(原則として、1日8時間、1週間40時間)を超える労働を意味する場合と、労働協約や就業規則によって定められている労働時間を超える労働を意味する場合とがある。労働基準法によって時間外労働が認められているのは、以下の二つの場合である。
第一は、災害その他の、避けることができない事由によって、臨時の必要がある場合で、原則として事前に労働基準監督署の許可を受ければ、必要の限度内において、時間外労働が認められる。また、非現業の公務員については、公務のために臨時の必要がある場合には、行政官庁の許可を要せず、時間外労働が認められる(労働基準法33条)。第二は、労働基準法第36条に基づいて、事業所単位で、使用者側と労働組合、もしくは労働組合が存在しないときは、従業員の過半数を代表する者との間で、書面による協定(これを三六(さんろく)協定という)をし、それを労働基準監督署に届け出た場合である。いずれの場合にも、使用者は25%以上の割増賃金を時間外手当として支払うことが義務づけられている。
もともと、労働基準法は、労働者の健康と生活を確保するために、1日の労働時間を8時間に制限したもので、このような法のたてまえからするならば、時間外労働は、本来臨時的なものとして必要最小限にとどめるべきものである。このため、諸外国においては、時間外労働の最高規制を定めるか、非常に高い割増賃金を課すかによって、その乱用を防ぐ手だてがとられている。ちなみに、アメリカでは、時間外労働に対して50%以上の割増賃金の支払いが義務づけられ、また、ドイツでは、年間30日間につき1日2時間までの延長に限定されている。しかし、日本の場合、健康に有害な坑内労働や婦人・年少者を除いては、時間外労働の最高規制がなく、労働基準法の定める割増賃金も、国際的にみてきわめて低い水準に置かれているため、先の労働基準法第36条の規定を乱用して、時間外労働が事実上無制限に、しかも恒常的に行われているのが現状である。
すなわち、一般的に企業は、労働時間が法律によって制限されると、それをこのような時間外労働の増大によって埋め合わせしようとする傾向があるが、日本の企業の場合は、人手をあまり増やさず、安上がりな恒常的残業に依存することによって生産の増大に対応し、逆に、不況で生産活動が停滞しているときは、所定外労働時間を規制して、生産の調整を図ってきたのである。他方、労働者側にも、基準内賃金が低く、それを補うためにやむをえず時間外労働を受け入れているという事情がある。なお、日本の場合、正式に時間外労働とされない、いわゆるサービス残業も多くみられる。
[湯浅良雄]
労働保護立法または労働協約の定める標準労働時間(労働時間)を超える労働。1日の所定時間を超える残業・早出と,休日出勤とがある。日本の労働基準法は〈休憩時間を除き1日について8時間,1週間について48時間を超えて,労働させてはならない〉(32条)と定めているが,他方36条で,この限度を超える時間外労働が,労働組合または〈労働者の過半数を代表する者〉との〈書面による協定〉(三六協定)で可能とされている(ただし18歳未満の年少労働の残業は禁止)。時間外労働の上限は,女子についてのみ定められている(1日2時間,週6時間,年150時間。〈児童労働・年少労働〉および〈女子労働〉の項参照)。成人男子については法定されていないが,この点は日本がILO1号条約(1919)を批准できない理由の一つでもある。
日本では,残業なしで帰る曜日をとくに定めて〈健康日〉〈衛生日〉とよぶなど,残業が恒常化されている産業が多い。つまり法定標準労働時間+恒常的残業が実際の標準労働時間となっており,したがって残業収入が月収の不可欠の部分となっている。
時間外労働に対しての割増賃金支払が,余暇の犠牲や疲労の加速度的増大に対する補償を労働者に行う意味で,また使用者に対して長時間労働をコスト面から規制する意味で行われる。割増率は先進国では25~50%がかなり多く休日は100%が通例だが,日本では労働基準法の定める25%かせいぜい30%増しが通例であり,企業に対する残業規制的効果はまったくない。なぜなら,福利費用はもちろん賃金のうちのボーナスや家族手当・通勤手当などは割増算定の基礎に入らないので,増員によるよりも残業によるほうが労務コスト増がずっと少ないからである。また残業をしても賃金がまったく払われない〈サービス残業〉〈風呂敷残業・持帰り残業〉や法内残業(協約による所定時間が法定のそれを下回る場合の法定基準までの労働)に対しての不払いや低額の賃率支払もかなりある。
執筆者:下山 房雄
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…労働者の心身の負担が大きいため禁止・規制・特別の保護を必要とする時間帯の労働。時間外労働(残業)が長引いた際および交替制勤務において深夜業が問題となる。労働基準法では午後10時~午前5時を深夜として,25%の割増賃金支払義務や年少者と女子の就業禁止(10時半終業の交替制は可)を定めている。…
※「時間外労働」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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