日本大百科全書(ニッポニカ) 「公正貿易」の意味・わかりやすい解説
公正貿易
こうせいぼうえき
fair trade
自由貿易は、ある一定の条件のもとでは当事国双方に貿易の利益をもたらすが、相手国からの輸入の急激な増加に対して国内の産業調整がスムーズにいかず、その産業が大きな打撃を受け、国内で失業が増加するなどの攪乱(かくらん)がおこされる場合には、貿易の拡大がかえってその国の経済的な利益を損なうことがあり、それに伴ってしばしば保護貿易を誘発する。このように、相手国に攪乱を引き起こすような無秩序な輸出は、貿易摩擦に伴う保護主義を台頭させ、結局は自由貿易の利益を阻害することにもなるから、秩序ある輸出を行い自由貿易の利益を確保すべきだとして主張されるようになったのが、公正貿易である。1973年(昭和48)秋から開始された東京ラウンド、86年からのウルグアイ・ラウンドでは、アメリカを中心に公正貿易体制の確立を要求する声が強く出された。その後もアメリカは、外国が不当な輸入制限を行ったり、輸出産業への補助金の供与やダンピングによって輸出を拡大しようとする行為を不公正な貿易だとし、それらを排除して公正な貿易を行うべきであるとして、自由貿易と並んで公正貿易の理念を提唱、相手国の不公正な貿易に対しては、報復的な措置を講じる通商政策を採択している。しかし、公正貿易の概念には不明確な点もあり、そのような措置が通商摩擦の原因にもなっている。
[志田 明]
『経済産業省通商政策局編『不公正貿易報告書』各年版(経済産業調査会)』