ダンピング(読み)だんぴんぐ(英語表記)dumping

翻訳|dumping

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダンピング」の意味・わかりやすい解説

ダンピング
だんぴんぐ
dumping

一般的には採算を無視した低価格商品を投げ売りすることをいうが、厳密な意味では価格差別、すなわち国内市場外国市場とで異なった価格で販売することをさす。国内価格よりは外国へ販売する価格が低いのが普通であるが、反対の場合もあり、これを逆ダンピングという。ダンピングが可能なのは、市場によって価格に対する需要反応が異なること、また供給者が独占的支配力をもっていることによる。

[相原 光・秋山憲治]

ダンピングの種類

ダンピングは一般に、散発的ダンピング、略奪的ダンピング、継続的ダンピングに分類される。散発的ダンピングとは、自国での売れ残り品およびたなざらし品などの過剰商品を、販売季節の終わりなどに、自国市場を損なうことなしに遠隔市場へ投げ売りすることである。略奪的ダンピングとは、外国市場へ進出するために一時的投げ売りによって競争者を征服したり、競争者の出現を阻止するために損失をしながらも販売を行うものである。それによって市場がいったん確保されると価格の引上げを行う。継続的ダンピングとは、生産者が一貫して外国市場で国内市場よりも安い価格で売る場合である。

 また、価格差別という意味の厳密なダンピングではないが、為替(かわせ)ダンピング、ソーシャル・ダンピングとよばれるものがある。為替ダンピングとは、為替管理を行っている国が計画的に為替相場の大幅な引下げを実施して輸出価格を下げ、それによって輸出の拡大を図る場合をいう。ソーシャル・ダンピングとは、長時間労働や劣悪な労働条件・社会条件をもとに、生産能率に比べて賃金水準低位に保つことによって安値輸出をしていることに対する非難ことばであり、かつてはソーシャル・ダンピングを日本ダンピングとよんだこともあった。これは、第二次世界大戦前、日本綿業が世界市場へ進出した時期に、イギリスの紡績資本家が用いたことばで、当時イギリスでは、自国よりも劣った労働条件で生産された商品の輸出をソーシャル・ダンピングと規定していた。しかし、一般に生産力と労働条件はほぼ比例するもので、低賃金で劣悪な労働条件は低生産性と結び付き、国際競争上高賃金・好労働条件の国がとくに不利になるものではないから、この非難はあたらないといえる。ただ、労働集約的商品の生産は先進工業国では衰退産業に属するので、後進工業国との競合を恐れて、自己防衛のためにソーシャル・ダンピングという非難を浴びせるのが実情である。

[相原 光・秋山憲治]

ダンピングに対する規制

外国のダンピングによって国内産業が損害を被るのを防ぐためにはダンピング防止(関)税が用いられる。第二次世界大戦後ダンピングに関する国際的規制については、ガットおよびその後身のWTO(世界貿易機関)が通常の関税に上乗せできる特殊関税制度を設けており、各国はこれに基づいて国内法で課税制度を規定している。

 ダンピング防止税を発動するには、ダンピングによって国内企業が損害を受けたことが明らかにされなければならない。しかし、その損害の判定については各政府当局の裁量の入り込む余地がある。また、不況時には、ダンピング調査の頻度も多くなり、場合によっては、暫定反ダンピング関税がかけられたり、調査の結論が出る前に、調査を受けた企業が輸出の自粛を迫られたりして、当該企業に不利な影響を与える傾向がある。ダンピングの防止措置については、WTOのガット第6条と「アンチ・ダンピング協定」の国際ルールが規定されており、またアンチ・ダンピング委員会が年2回開かれ、各種の問題が検討されている。

[相原 光・秋山憲治]

『油本豊吉著『貿易政策大系』増補版(1963・弘文社)』『日本貿易振興会編・刊『米国のアンチ・ダンピング』(1973)』『経済産業省通商政策局編『不公正貿易報告書』各年版(経済産業調査会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ダンピング」の意味・わかりやすい解説

ダンピング
dumping

自己の市場価格をくずさないために,売残り品を自己の販売市場としていない市場へ不当に廉売すること。一般には外国市場において,他国との競争に勝つために,商品の価格を自国の市場価格よりも不当に低く設定して売る,いわゆる輸出ダンピングの意味に使われている。国内価格よりも高い価格で外国に売ることを逆ダンピングという。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報