特定の公益事業(公共の利益となる事業)の需要を満たすために強制的に国民に課せられる経済的負担をいう。公益事業のため必要欠くべからざる物や労力を権利者から任意に取得できない場合に備えて認められている制度である。ここでいう公益事業は国または公共団体が行うもの(庁舎、学校、道路、公園、河川等の建設、災害対策)であるか、民営(電気、ガス、地方鉄道等)であるかを問わない。私企業が公用負担を課すことができる権利を公用負担特権という。公用負担は国民に一方的、強制的に負担を課すものであるから、法律の根拠を要する(憲法29条)。
[阿部泰隆]
公用負担は大別して人的公用負担と物的公用負担がある。人的公用負担とは、特定の人が特定の公益事業のために必要な作為・不作為または給付の義務を負担することをいう。負担金、労役または物品負担、夫役現品の種類がある。
[阿部泰隆]
労役または物品の給付義務たる人的公用負担をいう。非常災害に緊急に対処するために認められている(災害対策基本法64条、65条、災害救助法23条の2、24条、26条、水防法24条、28条、大規模地震対策特別措置法27条)。
[阿部泰隆]
夫役現品とは労役または物品と金銭との選択的給付義務たる人的公用負担をいう。貨幣経済の発達しない地方においては金銭を給付するよりも労役または物品を直接供給せしめるほうが義務者の便宜に適するとして認められてきたもので、現行法下では例外的存在(土地改良法36条、水害予防組合法49条)である。
物的公用負担とは、特定の財産権が特定の公益事業のために必要であるために、その所有者等のいかんを問わず、その財産権そのものに課せられる負担で、公用制限、公用収用(公用徴収)、公用権利変換の3種類がある。公用制限は、私人の所有権等その財産権はそのまま認めながら、それに公法上の制限を加えるにとどまるのに対し、公用収用は財産権そのものを強制取得するもので、土地収用がその典型であり、公用権利変換は、土地区画整理、土地改良、都市再開発などにみられるように、従前の権利にかえて新たな権利を賦与する手法である。
[阿部泰隆]
一定の行政計画に従った国土の開発,利用,保全等合理的な土地利用を図り,あるいは公共施設の整備その他公共事業の需要を満たし,特定の物の効用をまっとうするために,私人に対して強制的に課せられる経済的負担をいう。これらを実施する過程において土地等を必要とする場合には,売買契約の手段によりそれを取得すればよいのであるが,権利者の同意が得られない場合や,緊急を要するために通常の契約の手段によりがたい場合があり,特定の財産権を強制的に取得し,あるいは制限するのでなければ,その計画目的を達成することができない場合が少なくない。公用負担は,このような場合に対処するための制度である。公用負担は,公権力の行使によって一方的に課せられる負担であるという性質上,必ず法律の根拠を必要とする。地方公共団体がその条例に基づいて公用負担を課することができるかについては,従来は否定的に解されていたが,今日では肯定的に解する傾向にある。土地収用のように損失補償なしには行いえない公用負担と,都市計画法上の地域地区制等損失補償を要しない公用負担とがあり,憲法における財産権保障に関連して問題になる。公用負担は,私人に属する財産権をその権利者の意思にかかわらず強制的に取得しまたは制限すること等を内容とするものであるから,本来は国に専属する権利であるが,これを公共団体のほか,電気事業者や鉄道事業者等特定の公共事業を行う私人にも認める場合がある。これを公用負担特権と呼んでいる。
公用負担は,その内容に着目して,人的公用負担と物的公用負担とに大別される。人的公用負担は,特定の公共事業のために必要な作為,不作為,給付の義務を特定人に課すものであり,都市計画負担金や下水道負担金等公共事業に特別の利害関係をもつ者に,事業費の全部または一部を負担させる負担金,公共事業に必要な労役または物品の給付義務を課す労役負担または物品負担,必要な労役の提供または物品の給付か,これに代わる金銭給付のいずれかの選択的義務を課す夫役現品がある。しかし,貨幣経済体制の下では,負担金を除き存在理由に乏しく,負担金もその算定が難しく,十分に活用されているとはいえない。物的公用負担は,財産権に固着して課せられるものであるが,負担の性質の差異により,公用制限,公用収用,公用権利変換に分けることができる。公用制限は,一定の計画に従った国土の開発,利用,保全等合理的な土地利用を図るため,あるいは公共施設の整備その他公共事業の遂行のために特定の財産権に対して課せられる権利行使の制限をいう。具体的には,都市景観や自然環境の保全等の地域規制のために行われる場合と公共事業のために行われる場合がある。公用収用は,公共事業の用に供するために,特定の財産権を強制的に取得するもので,土地収用がその中心である。公用権利変換は,土地の合理的な利用を増進するために,一定地区内の土地の区画,形質を変更し,権利者の意思にかかわらず土地の所有権を強制的に交換分合する手法である。これには,土地区画整理事業にみられるような公用換地と都市再開発事業の場合の権利変換がある。公用収用は財産権を強制的に取得するものであるから,完全な損失補償が必要である。これに対して,公用制限は,財産権を権利者に保有させながらその行使を制限するものであるから,制限の程度により損失補償の要否に差異が生じる。〈公用収用から公用制限へ〉といわれるように,今日では,公用負担の中で重要な社会的役割を果たしており,またその内容が多様化しているのが,公用制限であるということができる。
執筆者:小高 剛
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…現在,土地収用に関する一般法として,〈土地収用法〉(1951公布)があり,また同法を補充する関係法令として,〈公共用地の取得に関する特別措置法〉(1961公布)がある。 土地収用は,公用負担制度の一部をなすものである。公用負担は,一定の行政計画に基づく土地利用の合理化を図り,公益上必要な特定の事業の需要を満たし,または特定の物の効用をまっとうするために,国民に対して行政的に課せられる経済的負担であり,土地収用のほかに,公用制限,公用換地,権利変換などの制度がある。…
※「公用負担」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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