其・夫(読み)そ

大辞林 第三版の解説

そ【其・夫】

( 代 )
中称の指示代名詞。それ。 「植ゑし田も蒔きし畑も朝ごとに凋み枯れ行く-を見れば心を痛み/万葉集 4122」 「まことに、-は知らじを/枕草子 137」 「 -が言ひけらく/土左」 「 -もまた程なくうせて/徒然 30

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精選版 日本国語大辞典の解説

そ【其・夫】

〘代名〙 他称。相手側の事物・人、または話題の事物をさし示す(中称)。格助詞「の」「が」を伴う例が多い。それ。
※古事記(712)下・歌謡「葉広 五百箇真椿(ゆつまつばき)(ソ)が葉の 広り坐し 曾(ソ)の花の 照り坐す」
伊勢物語(10C前)八四「身はいやしながら、母なん宮なりける。その母、長岡といふ所に住み給ひけり」
土左(935頃)承平五年一月二九日「とさといひけるところにすみけるをんな、このふねにまじれりけり。そがいひけらく」
※源氏(1001‐14頃)若紫「そは心ななり。御身づからわたしたてまつりつれば、かへりなむとあらば、をくりせむかし」
[語誌]上代ではまだ名詞相当の用法を持ち、格助詞「が」「の」「を」や係助詞「は」「も」等を伴って、事物、人、話題等をさすのに用いられた。中古以降、次第に「それ」にとってかわられ、中世末には「その」以外の「そ」の用法はほとんど用いられなくなる。

それ【其・夫】

[1] 〘代名〙
① 他称。話題になっている、または関心の対象となっている事物、人、時、場所などをさし示す。
(イ) 事物をさし示す。
※正倉院文書‐万葉仮名文(762頃)「しかるがゆゑに、序礼(ソレ)受けむ人ら、車持たしめて」
(ロ) 人をさし示す。
※伊勢物語(10C前)七七「その時の女御、多賀幾子と申すみまそかりけり。それうせたまひて」
(ハ) 時をさし示す。
※書紀(720)神代下(熱田本訓)「自爾(ソレよ)り今にいたる及(まで)に曾て廃絶(やふ)ること無し」
(ニ) 場所をさし示す。
※竹取(9C末‐10C初)「東の海にほうらいと言ふ山あるなり。それにしろがねを根とし、金を茎とし、白き玉を実として立てる木あり」
(ホ) さし示す対象をほとんどもたずに感動詞的に用いる。
※歌経標式(772)「鼠の穴米(よね)(つ)きふるひ木を鑽(き)りて引き鑽り出だす四つといふか曾礼(ソレ)
② 他称。相手側の、または相手に近い関係にある事物、人、場所などをさし示す(中称)。
(イ) 事物をさし示す。
※虎明本狂言・雁盗人(室町末‐近世初)「『やいやい、それはがんか』〈なまっていふ〉『中々鴈で御ざる』」
(ロ) 人をさし示す。
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)三「其れは我が子で候と云ぞ」
(ハ) 場所をさし示す。
※宇治拾遺(1221頃)五「しばしそれにおはしませ」
(ニ) 相手の行為や動作をさし示す。
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉四「子鼠の様子を見んと、息をこらしてながめ居たるに、子鼠は、更にそれとは心付かず」
③ 他称。事物、場所、時などを漠然と、また、故意に名を伏せて、さし示す。
※土左(935頃)承平四年一二月二一日「それの年のしはすの二十日あまりひと日の戌(いぬ)の時に」
※源氏(1001‐14頃)帚木「心あてにそれか、かれかなど問ふ中に言ひあつるもあり」
④ 対称。相手をさしていう。あなた。
※源氏(1001‐14頃)浮舟「時々はそれよりも驚かい給はんこそ思ふさまならめ」
※徒然草(1331頃)一四一「それは、さこそ思すらめども、己(おのれ)は都に久しく住みて」
[2] 〘接続〙 文の初めに用いて、事柄を説き起こすことを示す。そもそも。いったい。
※古事記(712)序「臣安万侶言(まを)す。夫(そ)れ、混元既に凝(こ)りて気象未だ效(あらは)さず」
※高野本平家(13C前)一「(ソレ)雄剣を帯して公宴に烈し、兵杖を給て宮中を出入するは」
[3] 〘感動〙 相手に指示し、注意を促すために発する語。そら。
※太平記(14C後)一〇「叉手して頭を伸て、子息四郎に、其れ討(うて)と下知しければ」
※虎明本狂言・昆布売(室町末‐近世初)「『手があきまらせぬ』『それ左の手があいたは』」

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