改訂新版 世界大百科事典 「典礼音楽」の意味・わかりやすい解説
典礼音楽 (てんれいおんがく)
キリスト教会における公的礼拝の音楽。キリスト教会の典礼を代表するといえるカトリック教会のラテン典礼においては,ミサをはじめとして聖務日課なども伝統的な規定があり,正式に定められているラテン語歌詞に対して,グレゴリオ聖歌の旋律をはじめ,ときとしては高度に芸術的な多声部の音楽がつけられている。1962-65年の第二バチカン公会議による典礼刷新の結果,各国語による典礼も認められることになり,日本でも《典礼聖歌》(一般用の初版1980)に見られるように,新しい日本語による新作歌曲が広く用いられるようになった。プロテスタント教会ではルターの福音主義教会,カルバンの改革派教会,あるいはアングリカン・チャーチ(日本の聖公会)その他それぞれの典礼に応じて,その音楽の伝統がある。たとえばドイツ福音主義教会では原則的にはミサ典礼が行われており,J.S.バッハのミサ曲は《ロ短調ミサ曲》(これはカトリック典礼のもの)を除いて,福音主義教会でのミサのための曲〈ミサ・ブレビス〉である。各国語による典礼とその音楽はプロテスタント諸教会や東方正教会が早くから用いてきた。実はカトリック教会自身,ラテン式ばかりでなく東方諸典礼をも,古来そして現在も用いてきている。最近ではキリスト諸教会の典礼音楽は相互に影響しあい,共用のものも多くなりつつある。
仏教その他の宗教における祭式の音楽も典礼音楽といえる。仏教の代表的典礼音楽としては声明(しようみよう)をあげるべきであろう。神道,儒教,道教その他の諸典礼音楽も新たに注目されつつある。
→キリスト教音楽
執筆者:野村 良雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報