兼愛説(読み)けんあいせつ

精選版 日本国語大辞典 「兼愛説」の意味・読み・例文・類語

けんあい‐せつ【兼愛説】

  1. 〘 名詞 〙 中国戦国時代思想家墨子の唱えた教説自分を愛するように人を愛し、親族他人とを区別しないで、無差別平等に愛すること。自他の区別を認めない点で、儒家博愛と異なる。兼愛思想。

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百科事典マイペディア 「兼愛説」の意味・わかりやすい解説

兼愛説【けんあいせつ】

中国,戦国時代の前4世紀の思想家墨子(ぼくし)の説いた墨家思想の中核をなす考え。天地万物の主宰者である天に対して,人は長幼貴賤の別なく均しく天の臣であり,天が万物を公平無私に愛するがごとく,人もまた自分の国・家・身を愛すると同様に他人の国・家・身を愛するならばこの世は平和となり,天はこれを賞する,という。このような無差別愛を兼愛といい,儒家の説くは自分の父親を愛することからその愛を親族・他人におよぼす類のものであるから差別愛であるとして,墨家ではこれを排斥した。兼愛説の愛は精神的なものにとどまらず,利益をともなうもので,愛しあうことによって利益を与えあう(兼愛交利)。また〈義は利なり〉〈孝は親を利するなり〉とあるように,ここでの利は道徳に合致するものでなければならない。

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改訂新版 世界大百科事典 「兼愛説」の意味・わかりやすい解説

兼愛説 (けんあいせつ)
Jiān ài shuō

中国,墨家の主張した学説。兼愛とは,すべての人間を無差別に愛すること。墨子は,自分と他人を区別せず,すべての人を愛するならば,争乱はなくなり,人は平和な生活を享受することができ〈天下大利〉であると主張した。また万人を愛するのは天の意志であるといい,兼愛を道徳上の当為として人に義務づけた。しかし孟子は〈父を無みし君を無みする禽獣の愛なり〉と排撃している。兼ね愛すること,それは墨子のような神を信ずる宗教者にしてはじめて可能なのであろう。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「兼愛説」の意味・わかりやすい解説

兼愛説
けんあいせつ
Jian-ai-shuo

中国,戦国時代の思想家,墨子の根本主張の一つ。人間は血縁,身分などの差別なしに平等に愛し合わなければならないということ。儒家が礼秩序と身分とに即応する差別的な愛の仁を主張するのに対し,これは平等の博愛であり,身分階制が厳重な時代には衝撃的な主張であった。またその学派の非攻,節用,尚賢,尚同などの主張の根底になっており,その根拠を天の意志,鬼神などの超越的 (全体的) 権威においた。

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世界大百科事典(旧版)内の兼愛説の言及

【中国哲学】より

…このうち墨子は,孔子の仁愛が家族を中心とする閉じられた生活共同体への愛であることに反対し,天の神の意志である人類愛,すなわち兼愛を主張した。そのあとに出た儒家の孟子は,墨子の兼愛説を無君無父(君を無(な)みし父を無みす)の思想として激しく攻撃するとともに,他方では人間の自然の性のうちに善が内在するという性善説を唱え,これが永く儒家の正統思想となった。これに対して道家の老子は,儒家の道徳を不自然な人為の産物として否定し,無為自然こそ天の道であることを強調した。…

【墨子】より

…儒と墨との原理には妥協を許さぬ相違があり,孟子なども墨子の学派をきびしく批判している。 墨子の思想のうち,もっとも特色があり,またもっとも有名なのは兼愛説である。兼愛とは,無差別の人間愛であり,親疎や遠近の区別をしない。…

※「兼愛説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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