県北東部に位置する汽水湖。湖は松江市・平田市・
日本の湖沼中では六番目の大きさをもつ。北側の島根半島と南側の中国山地に挟まれた東西に延びる宍道低地帯に形成された海跡湖。西側には出雲平野が開け、東側は松江市街地を挟んで中海が広がる。一級河川斐伊川水系の一部をなし、建設省の管理下にある。流入河川は西岸の斐伊川・
汽水湖の特徴として、夏期には淡水下に塩水が侵入する二層構造をとり、湖底部は無酸素状態となるが、冬期にはそれらは解消される。汽水湖独特の生態系を構成し、コイ、フナ、ウナギなどの淡水魚とスズキ、ボラ、ハゼなどの汽水魚が生息。魚種は三五科八〇種が確認されている。汽水魚は春に日本海から湖に遡上し、冬に下るものが多い。漁獲量は内水面漁場としては日本一で、宍道湖七珍といわれるアマサギ、シラウオ、スズキ、モロゲエビ、ウナギ、コイ、ヤマトシジミを中心に年平均一万五〇〇〇トンに上る。なかでもシジミは全国の約六〇パーセントを占める。湖で行われる漁法は、定置網(枡網・越中網など)・刺網・延縄漁・柴漬漁(朶葉漬漁)・筌漁・竹筒漁・網筌・投網漁など。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
島根県北東部にある汽水湖。北の島根半島,西の出雲平野,松江市街のある東の松江平野に囲まれた宍道地溝帯に形成された陥没湖で,湖岸線は単調である。東西約16km,南北約6km,面積約80km2。最深部は6mときわめて浅い。来侍(きまち)川,玉湯川などの小河川が注ぐが,最大の流入河川は出雲平野を貫流する斐伊(ひい)川である。排水は,おもに東岸松江市街を経て中海(なかうみ)につながる大橋川による。
宍道湖は,《出雲国風土記》には中海と合わせて入海(いりうみ)と記されている。このころの湖は面積は現在の約1.5倍,塩分の濃度も高かったとみられるが,はんらんと河道の変遷をくり返してきた斐伊川が寛永年間(1624-44)に東流して湖に注ぐようになってから,上流の鉄穴流(かんなながし)(たたら製鉄用の砂鉄採取)の影響もあって土砂が堆積して湖面は縮小し,塩分も減少した。一方,斐伊川の流入は西岸の三角州の成長を進める反面,東岸の松江にしばしば洪水の被害をもたらしたので,1689年(元禄2)に大橋川の南に並行して天神川が開かれ,1787年(天明7)には日本海に直接注ぐ排水路として佐陀(さだ)川が島根半島を横切って開かれた。両水路とも現在は排水量は少ない。昭和初期には斐伊川の改修,大橋川の浚渫(しゆんせつ)工事も行われたが,干天時には中海から海水が逆流して沿岸の農作物に被害が生じたりしたため,中海干拓事業の一環として宍道湖の淡水化計画が浮上した。しかし計画実行段階に入った80年代以後,湖水の水質汚染や漁業への影響を巡って住民の反対運動が高まり,ついに1989年にいたって〈淡水化計画の凍結〉という断が下され,2002年末に中止された。近世,湖は城下町松江にとって外濠の機能も果たし,また湖上交通も活発で,明治期になると汽船も航行した。湖の漁業はとくに刺網漁が発達し,シラウオ,ウナギ,エビ,コイ,スズキ,アマサギ(ワカサギ),シジミは〈宍道湖の七珍〉と呼ばれる。
東岸に嫁ヶ島が浮かぶ湖の景色は,かつて小泉八雲がその夕景をたたえたが,松江市街の宍道湖大橋からの眺めがとくにすぐれる。湖の南東岸に玉造温泉,北東岸に松江温泉があり,北岸に一畑電鉄と国道431号線,南岸に山陰本線と国道9号線が通じる。
執筆者:池田 善昭+杉元 邦太郎
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島根県東部、宍道低地帯にある海跡(かいせき)湖。面積79.1平方キロメートル、周囲47キロメートルで、東西に長い。最大深度6.4メートル。大橋川によって中海(なかうみ)に接続する。湖岸の南部と北部には山地や丘陵が迫っているが、湖岸線は単調である。流入する河川のうち西岸の斐伊(ひい)川が最大で、排出河川は東岸の松江市を貫流して中海に注ぐ大橋川と、北岸から流出して日本海に注ぐ人工水路佐陀(さだ)川がある。古来沿岸地域はしばしば洪水にみまわれたため、1787年(天明7)に佐陀川が掘削された。現在も水面標高が0メートルであり、豪雨時には水害を招くことが多い。また、中海、大橋川を通じて海水が逆流して塩害を生じることもある。1963年(昭和38)米の増産を目的に、宍道湖と中海を淡水化し、干拓地や周辺農地への農業用水として利用する計画(中海・宍道湖淡水化事業)が着手された。しかしその後は米の減反が進み、淡水化による水質の悪化なども問題となり、1988年(昭和63)鳥取、島根両県が国に工事の延期を申し入れ、事業は凍結し、2002年(平成14)宍道湖、中海の淡水化事業は中止となった。湖水は淡水に近い汽水(きすい)で、魚貝類もコイ、フナ、シラウオ、ワカサギ、ボラ、スズキ、シジミなど豊富である。湖上東部には玄武(げんぶ)岩からなる小島の嫁(よめ)ヶ島が浮かび、湖北には十六禿とよばれる旧海食崖(がい)がある。水郷松江の市街地を南北に分ける大橋川には全長138メートルの松江大橋が架かり、また、その西側には1972年(昭和47)に宍道湖大橋(310メートル)が架設された。なお、宍道湖は2005年(平成17)に、ラムサール条約登録湿地となった。
[飯田 光]
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