数理論理学ともいう。命題や論理概念を記号で表し、推論を式の変形という形式的な法則に還元して論理学を組織する一分科である。19世紀後半にG・ブールらの論理代数が現れ、フレーゲによって現代の記号論理学の基礎が築かれた。B・A・W・ラッセルはこれを大きく発展させ、『プリンキピア・マテマティカ』Principia Mathematica(1910)に集大成し、記号論理学の方法を確立した。
[西村敏男]
「雪は白い」「3<aかつa<8」、あるいは「nを任意の自然数とするとき、n<mとなるような自然数mが存在する」のように、ある一つの主張をしているものが命題である。3、a、8などは命題が扱う対象で、「雪である」「白い」「<」「自然数である」などは、対象のもつ性質を表し、述語とか命題関数といわれる。「かつ」「任意の」「存在する」は命題を合成する論理概念である。記号論理学ではこれらのものをすべて記号で表す。対象には定数と変数があり、それぞれ1、2など、あるいはx、yなどの記号を用いる。これらの記号を総称して項とよぶことにする。命題を合成する論理概念を表す記号(論理記号という)としては、いろいろの流儀のものがあるが、ここでは~(否定)、「∧」(論理積)、「∨」(論理和)、(含意)、「∀」(全称記号)、「∃」(存在記号)を用いる。~A、A∧B、A∨B、A⇒Bをそれぞれ「Aでない」「AかつB」「AあるいはB」「AならばB」と読む。また∀xF、∃xFはそれぞれ「すべてのxについてFが成り立つ」「Fが成り立つようなxが存在する」と読む。∀と∃を総称して限定記号とか束縛記号ともいう。さらに、論理記号を含まない原始命題や述語を表す記号を用いる。述語にはN(x)のように項を一つしか含まないものや、x<yの「<」のように、二つの項を含むものなどがある。一般に、n個の項を、含む述語をn項述語という。原始命題はゼロ項述語とも考えられる。命題を記号で表したものを論理式といい、次のように定義する。(1)原始命題記号は論理式である。R( ,…, )がn項述語で、t1,…, tnが項であれば、R(t1,…, tn)は論理式である。これらを素論理式という。(2)AとBが論理式であれば、~A、A∨B、A∧B、A⇒Bもまた論理式である。(3)Fが論理式であり、このなかには、変数xを伴った∀x、∃xは含まれていないとする。このとき、∀xF、∃xFは論理式である。このように、∀や∃を伴って現れる変数を束縛変数、そうでない変数を自由変数という。
[西村敏男]
数学の証明などで通常使われる論理を二値論理といい、命題(論理式)は「真」(1で表す)か「偽」(0で表す)のいずれか一方の値をとるものと考える。命題の「真」「偽」の値をその真理値という。
[西村敏男]
記号論理のうちで、論理記号~、<、>、⇒だけに着目して研究する範囲を命題論理とよび、限定記号∀と∃をも含めた一般の場合を述語論理という。命題論理では次の諸式が成り立つ。「=」は、式のなかのA、B、Cに1と0のいかなる値を入れても、つねに左辺と右辺が等しい値をもつという意味である。
(1)A∨~A=1(排中律), A∨0=A
(2)A∨A=A(吸収律)
(3)A∨B=B∨A(交換律)
(4)(A∨B)∨C=A∨(B∨C)(結合律)
(5)A∧(B∨C)=(A∧B)∨(A∧C)(分配律)
(6)~(A∨B)=~A∧~B(ド・モルガンの法則)
(1)′A∧~A=0(矛盾律), A∧1=A
(2)′A∧A=A
(3)′A∧B=B∧A
(4)′(A∧B)∧C=A∧(B∧C)
(5)′A∨(B∧C)=(A∨B)∧(A∨C)
(6)′~(A∧B)=~A∨~B
(1)′~(6)′は、(1)~(6)の∧、∨、1、0をそれぞれ∨、∧、0、1に一斉に置き換えたものである。これを双対の原理(そうついのげんり)という。∧、∨、~をそれぞれブール代数の「積」「和」「補元」の演算とし、1、0をそれぞれ最大元、最小元にとれば、命題論理の論理式の全体がブール代数をなすことがわかる。また、これらの式を用いて論理式を変形すれば、論理式は、~と∧、あるいは~と∨、あるいは~と⇒のみを含むものに変形できる。また、A|B(シェーファーの棒という)を~(A∧B)のこととすると、A|Bだけで他の論理記号がすべて定義できる。A∨~Aは、Aが1でも0でも値1をもつ。論理式は、そこに含まれる素論理式に任意に値1、0を与えるとつねに値1をもつとき、その論理式は「恒等的に真」な論理式、あるいは同語反復(トートロジー)という。命題論理では、論理式が恒等的に真であるかどうかを確かめる方法がある。述語論理の論理式∀xFと∃xFの間には、
~∀xF=∃x~F, ~∃xF=∀x~F
という関係がある。したがって、~と∀を用いれば∃を、~と∃を用いれば∀を定義することができる。述語論理の論理式∀x(F∨~F)は恒等的に真であるが、述語論理の任意の論理式に対して、それが恒等的に真であるかどうかを確かめるような一般的な方法はない。
[西村敏男]
記号論理を公理的に展開することもできる。公理と推論の選び方にはいろいろのものがあるが、その一つとしてまず、次の公理を与える。
(1)(A⇒B)⇒((B⇒C)⇒(A⇒C))
(2)(~A⇒A)⇒A
(3)A⇒(~A⇒B)
ここでA、B、Cは任意の論理式である。
(4)xがAのなかに含まれない変数のとき、
∀x(A⇒B)(A⇒∀xB)
(5)∀xA⇒A′
ここでA′は、Aに現れる変数xをすべて、Aのなかに束縛変数として含まれていない変数、あるいは定数yで置き換えて得られる論理式である。
推論規則として、次の二つを与える。
(1)AとA|BからBを得る(三段論法)。
(2)xを変数とするとき、Aから∀xAを得る。公理(1)、(2)、(3)と推論規則(1)だけからなるものが命題論理で、全体からなるものが述語論理である。論理式Aが証明されるというのは、公理から推論規則を次々と適用してAが得られることである。述語論理の体系では、証明される論理式はすべて恒等的に真であり、Aと~Aがともに証明されるような論理式Aは存在しない。これを無矛盾という。また、恒等的に真な論理式はかならず証明できる。これを完全性という。述語論理の体系は無矛盾でかつ完全である。したがって、命題論理でも述語論理でも、論理式が恒等的に真であることと、その論理式が証明できることは同じ意味である。任意の論理式Aが証明できるかどうかを確かめる一般的方法を与えることを決定問題という。命題論理では決定問題は肯定的に解けるが、述語論理では否定的に解ける。
いままで述べてきたのは、命題は「真」か「偽」かの値をとり、排中律(真と偽以外の値はない)の成り立つものである。これを古典論理ともいう。古典論理の対象領域を、「集合」「集合の集合」……にまで広げた記号論理もある。これを高階の述語論理という。また、排中律を認めない「直観主義の数学」に用いられる論法を記号化した直観主義論理の研究もある。また、真偽のほかに、第三の値を真理値としてもつ三値論理、より多くの真理値をもつ多値論理の研究もある。さらに、可能性、必然性を表す様相命題を記号論理のなかで表現するための論理演算をもつ様相論理なども研究されている。
[西村敏男]
『前原昭二著『記号論理入門』(1967・日本評論社)』▽『松本和夫著『数理論理学』(1971・共立出版)』
今日では,ほとんど現代論理学の別称となっている用語。伝統的なアリストテレス流の古典論理学と比べ,人工的な記号を多用するために,そう呼ばれた。19世紀後半に輩出した現代論理学の創始者たちは,特に数学を手本にして論理学を編制しようとしたため,数理論理学とか数学的論理学と呼ばれることもある。しかし言葉の由来はどうあれ,多量にしかも自覚的に行われた記号の採用と,論理的思考と数学的思考の同一性の認識とが,現代論理学を支える基本的発想となっている。
古典論理学と比較された現代論理学の特徴は,別の側面から次のように指摘することもできる。第1に,論理すなわち思考の一般的法則に要求さるべき形式的性格が,変数的標示の採用によりはっきりしたこと。つまり,具体的内容を捨象した結果浮かびあがる思考の形式性は,この方法によってはじめて表現可能になる。と同時に同じ構造をもつ一連の事態を法則化することもまた,これらの事態(の言語的表出)に共通な形式を変数で表すことにより可能となる。例で説明しよう。日本語の文,
〈ソクラテスが哲学者であるならば,ソクラテスは人間である〉
〈図形Aが三角形であるならば,Aの内角の和は2直角である〉
〈木の葉が沈むならば,石が浮く〉
はいずれも,人間の思考の成果を表現している文(命題)とみなすことができるが,そのすべてに共通な形式は,例えば,
〈……ならば○○〉
というふうな方法によって表すことができる。そのさい用いられた〈……〉や〈○○〉は,命題を不特定かつ一般的に--すなわち変数的に--示す記号なのである(そのかわりに,例えば記号pやqを用いても,なんら本質的な相違は生じない)。そしてかような形式の表現を得てはじめて,われわれは例えば,
〈すべての命題pについて,pならばq〉というような抽象的な法則を言い表すことができるようになる。そしてこの点で,論理学の議論の中には,日常言語に見られない記号が現れざるをえない。日常言語には,変数的表現がきわめて乏しいのである。
現代論理学の第2の特徴は,思考(というより,思考の現れとしての言語)の各構成要素の意味を,その要素に対応する実在によって定めようとしたことである。言葉の意味とは,その言葉がさし示す,世界の側の事態にほかならない。現代論理学は対象とかかわるかぎりの言葉の用法を問題とし,言葉が人間の心にひきおこすイメージといったものをまったく問わないのである。
第3に,このように了解された言語の各構成要素の論理的相互関係は,一種の量的な対応関係(関数関係)においてとらえられる。現代論理学はまさにこの発想を数学から継承したのである。具体的に説明しよう。いま命題を変数的に表現する記号をp,qと定める。命題に関して重要なのは,それが世界といかにかかわるか,すなわち真であるか偽であるかというそのことだけである。いま〈pでない〉という表現をとってみる。これは記号論理学ではふつう〈~p〉と書き表される。すると例えば,〈1999年は閏年である〉〈1999年は閏年でない〉という二つの命題を比較すればわかるように,〈pでない〉はpに真な命題が代入されれば偽な命題に,pに偽な命題が代入されれば真な命題になる。論理学はこの事実を逆用し,命題の真偽を反対にする機能を持つコトバとして~を定義するのである。これは〈~p〉が真偽に関してpの関数であることを意味している。〈pかつq〉(p∧qと書く),〈pまたはq〉(p∨qと書く)についても同様で,〈p∧q〉はpもqも真のときにかぎり真,〈p∨q〉はpもqも偽のときにかぎり偽となるようなp,qの関数として,それぞれ定義されるのである。
記号論理学の基礎部分は命題論理学と述語論理学とに分かれる。命題論理学は前例のように,命題を基本単位と考え,その単位相互の論理的関係を主題とする。述語論理学は命題論理学を部分として含むが,基本となる命題についてもその内部構造を分析し,内部構造に関連する論理法則を含めて,命題の論理関係を解明する。
→論理学
執筆者:坂井 秀寿
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…もちろんそこでは,人間の知識がこの人工言語で完全に表現されるにちがいない,ということが前提されているのである。記号論理学【坂井 秀寿】
【論理学の歴史】
[ヨーロッパ]
ヨーロッパ論理学の歴史は古代,中世,近世,近・現代に4分される。(1)古代――古代論理学は前4世紀にアリストテレスが著した《オルガノン》で始まる。…
※「記号論理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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