初夜権(読み)ショヤケン

精選版 日本国語大辞典 「初夜権」の意味・読み・例文・類語

しょや‐けん【初夜権】

  1. 〘 名詞 〙 ( [ラテン語] jus primae noctis の訳語 ) 結婚の初夜に、呪医、祭司、僧侶、領主、長老など宗教的・世俗的権力や指導力をもつ者などが、新郎に先だって新婦と同衾(どうきん)する権利。特に、中世ヨーロッパの封建制領主と領民の間に存在したとされる。また、古代社会未開社会にも見られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「初夜権」の意味・わかりやすい解説

初夜権 (しょやけん)

婚姻に際して,花婿以外の者が花嫁と最初の性交をなす権利。初夜権をもつのは僧侶,王,地主が多く,酋長や呪医の例も少なくない。中世ヨーロッパの地主や僧侶,またヒンドゥー教カンボジア仏教の僧侶にもかつてこの例が見られ,またエスキモーシャーマン,南米インディオの呪医にも散見する。この習俗において注目すべきは,花嫁との初交に対してしばしば花婿が抵抗を示し,これを避けようとすることである。それは疑いもなく,初交,ことに処女膜の血に伴う呪術的危機への懸念,恐怖と密接にかかわっている。他方,僧侶とか呪医はこれらの危険を無事に乗り越えることができると考えられており,また僧侶や呪医に初夜権を与えることによって呪術・宗教的な功徳がもたらされることを期待する。王や地主のもつ初夜権についても,彼らのもつ世俗的優越権と結合することによってもたらされる恩沢が強調される。これらの初夜権が呪術的恐怖から派生したものであれ,神聖な人や優越せる人との性交によりもたらされる裨益への期待から派生したものであれ,初夜権の素因は,それを保有するものの社会的人格の資質ないし権威と密接に関連している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「初夜権」の意味・わかりやすい解説

初夜権
しょやけん

結婚直前または初夜に、花婿に先だって、花婿以外の男性が花嫁と性関係をもつ権利のことをいう。婚前の処女性を尊ぶ思想には、夫婦関係の排他性という社会的・心理的要因があり、さらにその背景には、しばしば女性の生殖能力に対する呪術(じゅじゅつ)的信仰がある。古代インドでは、シバ神の表象である石製、金属製、象牙(ぞうげ)製の男根(リンガム)によって結婚前の女性の破瓜(はか)がなされ、また古代ローマの花嫁は、同じ意味で、男根神像の膝(ひざ)の上に座らなければならなかった。ヘロドトスの記述によると、バビロニアの女性は、結婚前にただ1人の旅人(異郷人)に身を任せなければならなかった(旅人を神の仮の姿とする見方は、世界各地に多い)。しかし、多くの場合、初夜権をもつのは、封建地主や聖職者であった。聖職者は神の代理人として処女に接し、彼女に豊かな生殖能力を与えるものとされている。また、破瓜による出血は、月経による出血より危険であるため、男性はこれを避け、神にとくに保護された聖職者のみがこの危険に耐えられるという説もある。これによると、花婿は身を守ることができ、花嫁は生殖能力を増強できるというので、初夜権の行使者に謝礼金を支払う場合もあった。王侯、貴族、領主などの世俗的権力者による初夜権の行使については、以上のような宗教儀礼とは別に、身分制度や権力構造との関連で問題にしなければならない。

[丸山孝一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「初夜権」の意味・わかりやすい解説

初夜権
しょやけん

結婚に際して,花婿以外の男性が婿に先立って花嫁に対してもつ初交の権利。大きく分けて,(1) 権力や指導力をもつ領主,首長,長老などがこれを行使する場合と,(2) 僧侶,呪医,巫者などの聖職者が行う場合,(3) さらには外来者や旅人に依頼して行う場合,などがある。 (1) の場合はたとえば中世ヨーロッパの封建領主が支配下の農民に対して有していたように,性的快楽や支配権の確認のために行われた。 (2) の場合はインドの僧職,カンボジアの仏教や道教の僧侶の例がこれにあたり,祭礼時の無礼講のように神意にかなう乱交の残存とみる説もある。しかしこれらも含めて,処女膜の出血が花婿に災いをもたらすのを防ぐためという呪術=宗教的な判断と深く結びついていることは疑いえない。たとえば,ニューギニア,オーストラリアなどでは成女式の秘儀にこのような習俗が含まれ,それが結婚の前提をなしている。

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百科事典マイペディア 「初夜権」の意味・わかりやすい解説

初夜権【しょやけん】

領主,首長,聖職者などが花婿に先立って花嫁と同衾(どうきん)する権利。血の汚れが強く意識されたため,初交時の出血に対する恐怖,悪霊の祟(たたり)からのがれようとする観念が庶民の間に生まれ,これが初夜権成立の動機となったとされている。

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