シダ植物の配偶体のことで、原葉体ともいう。前葉体は、胞子の発芽によって形成され、これから胞子体、すなわち葉が発生するので、前(原)葉体の名がある。大多数のシダ植物では、胞子が胞子体から離れたあとに発芽するので、前葉体は胞子体とは独立して生活することになる。少数の例外を除き、前葉体は地上生活をして、葉緑体を有し光合成を行う。前葉体は一般に短命で、次世代の胞子体がある程度成長すると枯死する。多くのシダ類の前葉体は薄いハート形で、通常、数ミリメートル程度の大きさであるが、リボン状、糸状のものもある(コケシノブ科、シシラン科)。
一般的な前葉体(ハート形)のつくりは、次の七つの部分からなっている。(1)褥(じょく)(前葉体の中央部に位置し、数層の細胞からなり、生殖器を生じる部分)、(2)翼(よく)(褥の両側へ張り出した一層の細胞からなる部分)、(3)仮根(かこん)(前葉体の基部、および糸状体に生じる細長い細胞で、葉緑体を欠き、根と同様の機能をもつ)、(4)成長点(ハート形の凹部で、細胞分裂を繰り返す)、(5)糸状体(前葉体基部にある細胞が一列に並んだ部分)、(6)造卵器(褥の最厚部に生じ、葉緑体を欠く)、(7)造精器(褥の基部、翼上、または翼縁に生じ、葉緑体を欠く)。
同型胞子シダの前葉体は、通常、雌雄同株(造卵器と造精器が同一の前葉体上に生ずるもの)であるが、トクサ科では雌雄異株のものもある。また、実験的培養下では、元来、雌雄同株のものでも、培養条件によって造精器のみを生じる前葉体ができることがある。マツバラン、ヒカゲノカズラ、ハナヤスリなどの前葉体は、塊状で葉緑体を欠き、菌根性で地中生活をするものが多い。異型胞子シダの前葉体は、著しく退化しており、雌性・雄性前葉体とも胞子の殻中で発達する。
[安田啓祐]
シダ類の配偶体のうち,扁平な緑色の葉状をして独立生活を営むもの。多くは心臓形。シダの植物体(胞子体)の前世代のもので,葉状体のような構造をもつことからこの名がついた。コケシノブやシシランの仲間のように糸状や帯状のものなどもある。シダ類の配偶体にはハナヤスリやカンザシワラビの仲間のように地中にあって棒状や塊状で葉緑体をもたず菌類を内生するものもあり,このようなものは前葉体といわないこともある。心臓形の前葉体では,中央部(褥(じよく))は厚さ数細胞,その他は1細胞である。生長点は心臓形のくぼんだ部位にあり,毛をもつことがある。裏面には仮根,造卵器,造精器がつくられる。精子が水中を移動して卵に到達して受精が起こることと,藻類に似た体の構造から,前葉体は湿った地表などの基物上に生える。前葉体の形成は,胞子体上につくられた胞子が発芽してまず1列の細胞からなる糸状の原糸体になり,その後二次元的に細胞分裂して葉状の前葉体がつくられる。
執筆者:加藤 雅啓
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…一般にシダ類といわれるものは真正シダ類fernで,シダ植物にはほかにマツバラン類psilotum,石松(せきしよう)類lycopod,トクサ類(有節類)horsetail(これらをひっくるめてfernalliesという)が含まれる。
[生活環]
種子をつくらない維管束植物はすべて,生活史のうちに,独立の生活を営む胞子体の世代(ふつうにみられるシダの体)と配偶体の世代(前葉体)をもち,それらが交互に現れる規則正しい世代交代を行っている。胞子が発芽すると配偶体になるが,シダ植物のうちの多くのものでは,心臓形をしてせいぜいmm単位の大きさの前葉体と呼ばれる構造をもっている。…
…コケ植物の配偶体は目だちやすく,複雑な構造をもち,とくに蘚類や苔類の一部では茎葉の分化がみられる。シダ植物の配偶体は小型で,ゼンマイなどシダ類の心臓形をした葉状の配偶体は前葉体と呼ばれる。マツバランやヒカゲノカズラなどの配偶体は軸状または塊状で,ふつう葉緑体を欠き,体内に内生菌類をもち,腐生生活をする。…
※「前葉体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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