19世紀の書物中心の観念的な教育に対し、能動的な生産作業体験を重んじ、とくに手工的活動を通して子供の知識と道徳性の統一的発達を目ざそうとする教育をいう。作業教育、勤労教育、労働教育とよばれることもある。労作は子供の興味・関心と結合されることが望ましいが、それだけでは遊びとの区別がつかず、労作が教育的価値をもつとはいえない。労作体験が知的・道徳的成熟の準備体験として意図的教育活動に組み込まれるときに、労作は教育的になりうる。
労作教育の思想は、子供の自己活動を重視したルソー、ペスタロッチ、フレーベルに源流をもつ。ペスタロッチやフレーベルは、とくに手工的制作活動を通じて労作の喜びを子供に体験させ、それによって子供の活動的・全人的発達を目ざした。この自己活動の思想は、20世紀の産業構造の変化と新しい教育運動の流れのなかで、J・デューイ、G・ケルシェンシュタイナー、P・ブロンスキーBlonskij(1884―1941)らによって発展させられた。デューイは問題解決学習の方法としての作業を通して、経験的な現代社会の理解を重視し、ブロンスキーは社会主義的生産労働として労作教育を考えた。しかし、労作教育の思想は、ケルシェンシュタイナーにより体系的に展開される。彼は学校教育と生産労働を結合させることによって、有能な公民の育成を主張した。その際子供の意志を事柄の法則に無条件に従わせることによって、子供の心意の望ましい発達が達成されると考えている。その思想は過去に日本の教育界に大きな影響を与えたが、今日もその再評価が行われている。
[田代尚弘]
『大谷光長著『ケルシェンシュタイナー――教育学序説』(1976・法律文化社)』
狭義には園芸など手作業を中心とする身体的活動を通して行われる教育をいうが,一般には19世紀末以来ヨーロッパ〈新教育〉運動の一環としてドイツを中心に起こった労作学校Arbeitsschuleの教育を指す。旧来の主知主義的・受動的教育を基調とする学習学校Lernschuleに反対し,手工的労作を基本にあくまで児童生徒の自発的活動を重視する教育を実践した。この教育運動の有力な推進者であるG.ケルシェンシュタイナーは,労作教育を共同体や国家に貢献する人間形成のための重要な活動としてとらえ,手工的労作のみならず,自由な自己活動による精神的労作との協働を主張した。日本では1922年からの欧米留学から帰国した北沢種一(1880-1931)が東京女子高等師範学校の付属小学校に労作教育を全面的にとりいれた。毎日午後を作業時間にあてて社会的活動や共同作業を行い,児童の個性伸長をはかった。その際あえて〈労作〉教育とよんだのはソビエトにおける〈労働学校〉論と区別する意識が作用していたと考えられる。
執筆者:須藤 敏昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…さらに1918年から病死するまで,ミュンヘン大学の教授として教育学の理論的研究に専念した。教育理論史上に顕著な彼の主張は労作(作業)教育説と公民教育説である。彼は学校改革のモデルとして労作学校(作業学校)の創設を提起したが,単なる知識の伝達よりも,集団的な手仕事的作業を通しての技術的・精神的・道徳的諸能力の発達を重視した。…
※「労作教育」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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