一般の労働者よりも特別に高い賃金と安定した社会的地位を得て、生活意識面でも小ブルジョア化した労働者層。労働者階級中のこのような特権層を基盤として労働官僚が形成される。労働官僚とは、労働組合、政党その他の労働者関係の諸機関の内部で指導的地位にありながら、労働者大衆から分離し、官僚化し、日和見(ひよりみ)主義的路線をとる幹部をさす。
帝国主義段階の労働運動の特徴を説明しうるものとして労働貴族論を展開したレーニンによれば、帝国主義の諸矛盾が激化するのに伴い、支配階級は、抑圧機構を強化する一方、他方では労働者階級内に特権層を育成することによって労働者階級の分裂工作を行うようになる。歴史的にみると、19世紀後半以降、イギリスをはじめとする発達した資本主義諸国の独占資本は、内外にわたる経済的・政治的特権を通じて膨大な特別超過利潤を獲得し、それを経済的基盤として機械工などの熟練労働者を中心とする上層労働者の経済的・社会的地位を向上させることができた。このようにして形成された労働貴族を基盤として労働官僚が、「労働運動の内部におけるブルジョアジーの真の手先、資本家階級の労働副官、改良主義と排外主義の真の伝達者」として機能することによって「ブルジョアジーの主要な社会的支柱」(レーニン)が確立されるに至った。
しかし、帝国主義諸国間の闘争の激化、国内矛盾の激化、社会主義的潮流の強大化などの結果、今日では、19世紀後半のイギリスでみられたような広範な労働貴族層を基盤とする安定した日和見主義的潮流の存在は不可能となった。とりわけ技術革新、生産過程の機械化・自動化の結果、特殊な熟練に基づく19世紀的労働貴族層の地位は決定的に低下した。しかし他面では、労働者諸組織の量的成長、国家の経済的活動分野の拡大などが、多くの労働官僚を生み出す基盤をつくりだしている。
[富沢賢治]
『レーニン著、宇高基輔訳『帝国主義』(岩波文庫)』
労働運動の指導者でありながら資本の利益を守り,それによって特権的な利権を得ているものの呼名。労働者の中の貴族の意。F.エンゲルスが著書《イギリスにおける労働者階級の状態》1892年版の序文で,当時クラフト・ユニオンを組織し,排他的な手段によって職業ごとの利益を追求していた熟練労働者を非難してこのように呼んだことから,大衆的労働運動を主張していた人々の間でこの言葉が普及した。20世紀に入って労働組合が大衆化し,組織規模が巨大化するにともなって,労働組合役員が固定的な層になると,これを批判して労働官僚と呼ぶ例があらわれたが,ほぼ同じ意味で使われている。第1次大戦から1935年までコミンテルンが社会民主主義を社会ファシズムと規定して対立した際にその理論を構成する概念として多用されたが,統一戦線思想の成立によって理論的用語としては使われなくなった。
執筆者:栗田 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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