帝国主義論(読み)ていこくしゅぎろん

精選版 日本国語大辞典 「帝国主義論」の意味・読み・例文・類語

ていこくしゅぎろん【帝国主義論】

  1. ( 原題[ロシア語] Impjerializm, kak vysšaja stadija kapitalizma ) 社会経済学書。レーニン著。一九一七年刊。従来ヒルファーディング、ホブスン、カウツキーなどの帝国主義論を批判しながら、資本主義最後段階として帝国主義をとらえ、この点から社会、経済、政治変革を説いたもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「帝国主義論」の意味・わかりやすい解説

帝国主義論 (ていこくしゅぎろん)

一般的に〈帝国主義〉とは,1880年代初頭から第1次大戦に至る時期に,欧米の先進的工業諸国が〈アフリカ分割〉を皮切りにして世界の後進諸地域にその影響力,支配力を拡大していった事象を表す。この帝国主義をもっぱら経済的動機に規定されたものであるとの前提に立ち,初めて体系的な説明を施したのがJ.A.ホブソンの《帝国主義論》(1902)である。ホブソンは,資本主義経済の比類ない生産力によって生み出される過剰な商品ならびに資本が,国内市場だけでは吸収しきれないため,そのはけ口を外国市場に求める結果として帝国主義が導かれるとし,とくに過剰な資本の輸出が帝国主義の原動力であると述べた。ホブソンは,富の再配分をくふうすれば帝国主義を回避できると考えたが,ホブソンの資本輸出論とR.ヒルファディングの〈金融資本〉概念を採用したV.I.レーニンは《帝国主義論》(1916)において,帝国主義を資本主義経済の到達した最高の発展段階(独占段階)であるとし,社会主義に道を譲るほかないものと主張した。レーニンによれば,帝国主義の特徴は商品生産が少数の巨大独占企業に集中化され,あわせて銀行の集中も進行する点にあり,これは資本主義経済の生産の無政府性を薄めてその組織化を導くかにみえるが,この組織化傾向は一時的なものにとどまり,帝国主義列強は世界市場の再分割を武力に訴えて強行せざるをえず,これが資本主義経済の崩壊の必然性を示しているというのである。

 以上のような古典的〈帝国主義論〉に対して,それらは多様な要因からなる現実の帝国主義を説明できないとして,〈自由貿易政策〉の時代にもみられる外交政策を介しての間接的,非公式な影響力,支配力をも帝国主義として認識すべきだとするロビンソンRonald Robinson(1920-99),ギャラガーJohn Gallagher(1919-80)の〈自由貿易帝国主義〉論や,不均等な経済発展がもたらす国内の利害対立を外部に発散させ,国内の一体化を図る経済政策として帝国主義を理解すべきだとするセンメルBernard Semmel(1928- ),ウェーラーHans Ulich Wehler(1931- )らの〈社会帝国主義〉論が近年の研究に大きな問題を提起している。
帝国主義
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「帝国主義論」の解説

帝国主義論(ていこくしゅぎろん)

最初の帝国主義論は,1902年にイギリス人ホブソンによって書かれた。彼は先進諸国の植民地の拡大とともに諸国からの海外投資が増大していることに着目し,所得の配分の不均衡が国内市場を狭め,資本を海外に向かわせているとして,「投資のための有利な市場の獲得」をめざす帝国主義は一般国民の利益にならないと論じた。より著名な帝国主義論はロシア革命の指導者レーニンにより16年に亡命先のスイスで書かれた。彼も帝国主義国による世界の政治的分割を資本輸出市場の分割との関連でとらえ,第一次世界大戦をその再分割のための戦争と理解したが,帝国主義を「資本主義の最高にして最後の段階」と定義した。彼の帝国主義論はマルクス‐レーニン主義の基本文献として大きな影響力を持ったが,資本主義の最後の段階は彼の期待に反して終わらなかった。オーストリアの社会科学者シュンペーターは,帝国主義時代に経済的価値の乏しい植民地が多く獲得されたことに着目し,19年の著作で帝国主義を「無目的な膨張」と定義し,古代帝国以来の伝統的支配階級の性向に結びつけた。第二次世界大戦後,植民地の独立達成とともに,植民地支配を伴わない帝国主義についての議論として「非公式帝国論」や「従属論」などが登場した。中ソ対立の激化とともに,中国指導層はソ連の行動を「社会帝国主義」と批判して,注目された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「帝国主義論」の意味・わかりやすい解説

帝国主義論
ていこくしゅぎろん

原題は『資本主義の最高段階としての帝国主義』Империализм,как высшая стадия капитализма/Imperializm,kak vïsshaya stadiya kapitalizma。第一次世界大戦中にレーニンが亡命先のスイスで執筆した著作。1917年発表。これが書かれたのは、第一次大戦の性格が植民地と市場の再分割を目ざす帝国主義的、侵略的なものであることを明らかにし、この戦争に反対するためであった。ホブソンやヒルファーディングをはじめ、多数の同時代の研究業績を踏まえて書かれている。

 自由競争から独占が生まれたことを帝国主義の経済的特質として明確に指摘するとともに、当時の世界を、英米独仏の四大国を頂点に政治支配と金融支配の体制として描いている。

 レーニンの帝国主義批判は国際労働運動における排外主義批判と一体をなしている。その意味では、同じ時期のレーニンの非合法文献(第二インターナショナルの分裂に関する)をあわせ読む必要がある。

[安藤 実]

『副島種典訳『帝国主義論』(大月書店・国民文庫)』『全集刊行委員会訳『帝国主義論ノート』(『レーニン全集 39巻』1972・大月書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「帝国主義論」の意味・わかりやすい解説

帝国主義論
ていこくしゅぎろん
theory of imperialism

帝国主義の概念規定やその性質,原因についての理論。大別すると,(1) 帝国主義をもって国家の無制限な拡大への権力性向としてとらえ,帝国主義を特に資本主義とは結びつけない J.シュンペーターに代表される考えと,(2) 資本主義の一定の発展段階と結びつけてとらえるマルクス主義者を中心とする考え,(3) 帝国主義の時間的・空間的連続性を見出し,イギリスにおける 19世紀中頃の状況を自由貿易帝国主義として理解する主張,などがある。 (2) はさらに帝国主義は資本主義の発展に必要であり,帝国主義国の労働者にも利益をもたらし,植民地をも文明化させるとする E.ベルンシュタインらの社会帝国主義論,帝国主義国内の富の不平等な分配が販路や投資の不足を国外に求める結果をもたらすとして,国内の富の平等分配などによる帝国主義の廃絶を説く J.ホブソンら自由主義者の立場からする帝国主義論,マルクス主義に依拠する V.レーニン,K.カウツキー,R.ヒルファーディングらの説く帝国主義をもって資本主義の特定の発展段階における必然的産物とする帝国主義論に分けられる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「帝国主義論」の解説

帝国主義論
ていこくしゅぎろん
Imperializm, kak vysshaia stadiia kapitalizma

レーニンの経済論
1916年刊。資本主義が高度に発展して独占資本主義の段階になったとき,帝国主義に転化すると説き,ロシア革命の理論的支柱となった。

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世界大百科事典(旧版)内の帝国主義論の言及

【帝国主義】より

…彼は雑誌の特派員として南アフリカを訪問し,その戦争の背後には経済的動機,とりわけ大金融業者の暗躍があるとの印象を受けた。そして,帰国後,彼は近年イギリスからの資本輸出が急増している点に着目し,植民地拡大はイギリス国内の過剰資本を投資する先を求める大金融業者と投資階級の特殊利益のためにあり,しかも,帝国主義の全体的な構図を描く能力をもつ司令部は金融業者であるという仮説のもとに《帝国主義論》(1902)を書いた。これは,海外膨張を重大な病理状態と見立て,その病巣はイギリス本国で影響力を増す既得権益の体系であると指摘した点で,多大の意義をもった。…

【帝国主義論】より

…一般的に〈帝国主義〉とは,1880年代初頭から第1次大戦に至る時期に,欧米の先進的工業諸国が〈アフリカ分割〉を皮切りにして世界の後進諸地域にその影響力,支配力を拡大していった事象を表す。この帝国主義をもっぱら経済的動機に規定されたものであるとの前提に立ち,初めて体系的な説明を施したのがJ.A.ホブソンの《帝国主義論》(1902)である。ホブソンは,資本主義経済の比類ない生産力によって生み出される過剰な商品ならびに資本が,国内市場だけでは吸収しきれないため,そのはけ口を外国市場に求める結果として帝国主義が導かれるとし,とくに過剰な資本の輸出が帝国主義の原動力であると述べた。…

【ホブソン】より

…イングランドのダービーで自由主義的な新聞経営者の家に生まれ,1880年から87年までオックスフォード大学で主として古典学を学び,卒業後著述活動の傍ら経済学の研究に励んだ。著書は大小50種以上にのぼるが,20世紀の初頭,折しもイギリスで植民地領有熱がさかんであったころに著した《帝国主義論Imperialism:A Study》(1902,4版1948)は,世界に広く知られている。本書は彼が《マンチェスター・ガーディアン》の特派員として99年南アフリカにおもむき,南ア戦争を目撃するなどした体験に刺激されて書かれた。…

【金融資本】より

…しかし,この一節は一見して明らかなように,商業手形の割引を主要業務とする商業銀行と産業との間にもある程度あてはまりそうな抽象的な表現で銀行と商業の関係を述べているにすぎず,この前後にヒルファディングが述べていることの的確な要約とはいいがたく,まして彼の大著を総括するような命題でもない。当然,これを《帝国主義論》(1917)で引用したレーニンは,この定義が,最も重要な要素である高度の,すなわち独占をもたらすほどの,生産と資本の集積について言及していないから不完全であるとして(ちなみに〈金融資本は,株式会社とともに発展し,産業の独占化をもって完成に至る〉というのが,レーニンによって引用された部分の次にくるヒルファディングの文章である),彼自身の簡潔な定義を次のように対置している。〈生産の集積,そこから成長する独占,銀行と産業との融合あるいは癒着――これらの点に金融資本の発生史と金融資本の概念の内容がある〉(第3章)。…

【経済学説史】より

…さらに,《資本論》の第4巻に当たる《剰余価値学説史》は,古典派経済学にいたるまでのマルクス自身の批判的な経済学説史にほかならない。 マルクス以後のマルクス経済学は,《金融資本論》(1910)の著者R.ヒルファディング,《資本蓄積論》(1913)の著者R.ルクセンブルク,《帝国主義論》(1917)の著者レーニン,そして宇野弘蔵などの手により展開されていく。また,L.ボルトキエビチ,柴田敬などを先行者として,置塩信雄,森嶋通夫などにより,マルクス経済理論の数学的構造が明らかにされ,ある意味で近代経済学の立場からのマルクス経済学への接近が容易になった。…

【帝国主義】より

…彼は雑誌の特派員として南アフリカを訪問し,その戦争の背後には経済的動機,とりわけ大金融業者の暗躍があるとの印象を受けた。そして,帰国後,彼は近年イギリスからの資本輸出が急増している点に着目し,植民地拡大はイギリス国内の過剰資本を投資する先を求める大金融業者と投資階級の特殊利益のためにあり,しかも,帝国主義の全体的な構図を描く能力をもつ司令部は金融業者であるという仮説のもとに《帝国主義論》(1902)を書いた。これは,海外膨張を重大な病理状態と見立て,その病巣はイギリス本国で影響力を増す既得権益の体系であると指摘した点で,多大の意義をもった。…

【帝国主義論】より

…一般的に〈帝国主義〉とは,1880年代初頭から第1次大戦に至る時期に,欧米の先進的工業諸国が〈アフリカ分割〉を皮切りにして世界の後進諸地域にその影響力,支配力を拡大していった事象を表す。この帝国主義をもっぱら経済的動機に規定されたものであるとの前提に立ち,初めて体系的な説明を施したのがJ.A.ホブソンの《帝国主義論》(1902)である。ホブソンは,資本主義経済の比類ない生産力によって生み出される過剰な商品ならびに資本が,国内市場だけでは吸収しきれないため,そのはけ口を外国市場に求める結果として帝国主義が導かれるとし,とくに過剰な資本の輸出が帝国主義の原動力であると述べた。…

【マルクス経済学】より

…換言すれば,イギリスやアメリカの金融資本との相違は極端に軽視される傾向にあった。 そこで,ついでV.I.レーニンは《帝国主義論》(1917)を著し,ヒルファディングの金融資本ないし金融寡頭制の規定を前提としながらも,イギリス,ドイツ,アメリカ,フランス等の金融資本の違いをも総括しつつ,世界資本主義は新しい発展段階,すなわち帝国主義段階に到達した,と規定した。そしてこの段階の最大の特徴は,国の内外における資本独占である,と結論した。…

【レーニン】より

… 第1次大戦の勃発に不意を打たれた彼は,直観的にロシアの敗戦は〈最小の悪〉という方針を出して対処したが,戦争の根源,各国社会民主党が祖国防衛主義をとった根源をつかむべく,帝国主義の研究に没頭した。この研究が《資本主義の最高の段階としての帝国主義》(帝国主義論)に結実した。戦争を支持した社会主義者とはいっさい協力しないとして,来るべき革命では自党が権力をめざすとの考えを抱くにいたった。…

※「帝国主義論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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