単分子膜(読み)タンブンシマク

化学辞典 第2版 「単分子膜」の解説

単分子膜
タンブンシマク
monomolecular film

液体の表面上に,これとまじり合わないほかの物質が広がってつくる1分子層の膜.Lord Rayleigh(1890年)は,ショウノウ水面で動きまわる現象が,油を水面に置き表面張力を2×10-4 N cm-1 以下に下げると停止することから,油の膜の厚さが1.0~1.6 nm 程度になることを知り,これが分子の程度に近いことを指摘した.A. Pockelsはこの実験において,あらかじめろうを塗ったガラス棒(Pockelsの仕切り)で水面を掃いておくと実験の精度が上がること,および2本の仕切りで油膜をはさむと水はくぐり抜けるが,油膜の面積を圧縮できることを発見した(1891年).その後,I. Langmuir(ラングミュア)(1917年)は,一定濃度の脂肪酸ベンゼン溶液を水面に置いて,ベンゼンが蒸発したのちに残る脂肪酸の膜の占める面積を,Pockelsの仕切りを用いて圧縮していった.このとき,脂肪酸1分子当たりの面積が,ある限界面積に達すると表面圧が急に上がることを表面圧はかりで観察し,脂肪酸の単分子膜ができることを確認した.また,この単分子膜の表面圧と膜の面積との間に,三次元の世界における圧力体積との関係に類似する関係が成立することを発見して,二次元的な気体膜や液体および固体膜(凝縮膜)が存在することを示した.K. AdamはLangmuirの方法を改良し,さらに多くの有機化合物の水面単分子膜について研究し,分子構造に関する研究を行った.Langmuirの協同研究者のK.B. Blodgetは,水面の単分子膜を固体面に移し,層状分子膜(累積膜)をつくる技術を開発した(1935年).タンパク質の気体性単分子膜の表面圧と表面濃度との関係から,分子量を求めることもできる.また,ダムの水面の蒸発が,油の分子膜で抑制されるという研究もある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「単分子膜」の意味・わかりやすい解説

単分子膜
たんぶんしまく
unimolecular film

厚さがちょうど1分子に相当するだけの薄い膜となって分子が整列したときに単分子膜、あるいは単分子層という。高級脂肪酸や高級アルコールを、ベンゼンなどの易揮発性の溶媒に溶かして水面に落とすと、溶媒が揮発したあとに単分子膜をつくることができる。このとき、アルコールのヒドロキシ基カルボキシ基カルボキシル基)は親水基であるので水のほうを向き、疎水基の長鎖のアルキル基は水から遠いほう(空気中)に並ぶ。すきまなく分子が配列すると、厚さがちょうど長鎖のアルキル基(プラス親水基)の長さに相当した単分子の膜が得られる。これから脂肪酸の鎖の長さ、分子の断面積などを初めて求めたのはアメリカのラングミュアである。彼は固体表面における気体の吸着を、やはり単分子膜の概念を用いて解析し、気体中の金属表面の化学反応などに関して貢献をした。

山崎 昶]

『立花太郎著『しゃぼん玉の科学』(1975・中央公論社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「単分子膜」の意味・わかりやすい解説

単分子膜 (たんぶんしまく)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の単分子膜の言及

【単分子層】より

…表面積当りの脂肪酸塩濃度が十分に低いと,脂肪酸塩分子は表面を自由に動きまわるが,濃度が高くなると,表面(水‐空気界面)にぎっしりと並ぶ。このように分子が液体または固体の表面(あるいは界面)につくる分子の直径程度の層を単分子層,一分子層または単分子膜monomolecular filmという。単分子層をつくる分子は,水表面の脂肪酸塩のように,定まった方向に配向することが多いので,特有の性質を示す。…

※「単分子膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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