日本大百科全書(ニッポニカ) 「占有標」の意味・わかりやすい解説
占有標
せんゆうひょう
事物の占有標識。土地・家屋をはじめ資財一般に、占有者を明記した標札、標木の類を付して占有の証とするのは一般の風習で、その由来も久しい。古代古典にも山野に「シメ(標)を刺し」「シメを結って」先占の意を表示したことがみえる。神域、祭場を画するシメ(注連、標)の縄張りはその古意がいまに活(い)かされているものであり、野宿に際し四隅に柴(しば)を挿して山の神の許しを願い、あるいは焼畑予定の山野に標(しめ)を張って「地もらい」を山の神に請う習俗などもまた同趣であった。山野の草木類の採取に、小石や折り枝を置き、あるいは草を結んでおくという素朴な目印も同類であり、やがては伐木に各自特定の「木印(きじるし)」を斧(おの)で刻み込んだり、あるいは放牧の牛馬の耳に特定の傷痕(耳印)をつけて個別占有の標とするようにもなっていく。釣り上げた魚に各自独自の「歯形」をつけて占有の標とするのも同趣であった。農具や家具に「焼き判」で「家印(いえじるし)」を押して所有の標とするのは、いわばこうした風習の発展で、近世の村々ではおおむね家ごとに特定の「家印」が「家紋」とは別に設定されてもいた。荘園(しょうえん)の四至に立てられた「牓示(ぼうじ)」などは土地標木の古い例であり、その伝統は広く今日にも及んでいて、戸別の標札掲示の類もまたその余流である。
[竹内利美]