所領の境界に立てる標示。牓示が公領や荘公両属型の所領に一般に立てられた形跡はないので,もっぱら寺社境内,または一円不輸ないし不入権などを持つ排他的領域性の明確な荘園に立てられたものと考えられる。本来は東西南北の四隅(四至(しいし))に立てるたてまえであったようだが,地形・領有関係上の事情などから,任意に必要な個所にも立て加えられるようになった。一般に荘園に牓示を打つ行為(〈牓示打ち〉という)は,荘園が上述のような排他的領域性をもった所領として立券されるときに,領主の使,荘官,官使(朝廷の使)や国使(国衙の使)の共同作業として行われており,朝廷・国衙の公的承認のうえに将来の紛争を防止する意味をこめて立てられたことを示している。しかし現実には,立てられた牓示は絶対的効力を持たないことがあり,種々の論理をもって国衙や隣接する他領主の手で引き抜かれることもあった。これは,牓示による領域確定が多分に現実の領有関係を強権的に処理しようとするものだったのに対し,中世の領有関係が必ずしもそれで解決できる性格のものでなかったことを示している。
なお,牓示の素材には木柱,石柱とともに自然木,岩峰などが利用されることもあり,荘園絵図にはこれらがきわめて具体的に描き込まれている。越後国奥山荘(現新潟県胎内市,旧中条町)はじめいくつかの荘園では,その実物が残されている。
→荘園
執筆者:義江 彰夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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