原子核反応には、入射粒子が標的核の核子と1回衝突して反応が進む直接過程、2回以上衝突する多段階過程、さらにその極限の場合として入射粒子が標的核と一体となって一つの原子核を形成し、それが崩壊して粒子を放出する過程がある。この中間状態にできる原子核を複合核とよび、複合核を経由しておこる反応を複合核反応という。
1934年イタリアのE・フェルミがみいだした反応で、デンマークのN・H・D・ボーアが「複合核」を考え出して説明した。
複合核の比較的低い励起エネルギーの領域においては離散的なエネルギー準位に対応して共鳴が現れる。共鳴幅をΓとすると
ħ/Γ (ħ=h/2π,hはプランク定数)
が複合核の寿命で、一般に衝突時間に比べて非常に長い。そのため核反応の理論では、複合核のできる過程と、粒子を放出して崩壊する過程を独立なものとして取り扱う。入射粒子による核の励起を振動の強制に、そして粒子の放出を振動の減衰になぞらえると、複合核反応は古典的には減衰を伴う強制振動系によって類似され、光の分散現象と同じ形式のものとして扱える。この考えに従って量子力学的に反応の断面積を計算したものにブライト‐ウィグナーの分散公式がある。
複合核の励起エネルギーが高くなるとエネルギー準位幅が大きくなり、互いに重なり合って共鳴準位は現れなくなる。そして状態密度がきわめて大きくなり、統計熱力学的な凝集相とみなすことが可能で、粒子放出は液滴の蒸発に似た現象と考えられる。
[村岡光男]
核反応の途中で入射粒子と標的核が融合したときにできる複雑な構造をもった原子核。1934年E.フェルミは遅い中性子を種々の標的核に衝突させ,中性子のエネルギーがとびとびのある値Eiにほぼ等しいときに,きわめて強く反応が起こることを見いだした。N.H.D.ボーアはこのいわゆる共鳴現象を複合核という概念を用いて説明した。すなわち,入射中性子のエネルギーがEiのとき,その中性子は標的核の中に入って核内の核子(中性子と陽子の総称)と何回も衝突し,そのエネルギーを多数の核子に分配して複雑な複合核状態をつくり,きわめて強い反応を引き起こす。分配されたエネルギーが再びある粒子に集中し,その粒子が核外に飛び出すまでには長い時間がかかるので,複合核状態の寿命tは非常に長い。複合核状態のエネルギー幅Γは,不確定性関係によりΓ∝t⁻1で与えられるので,きわめて狭い。また入射エネルギーを多数の粒子に分配するしかたはたくさんあるから,複合核状態の数は非常に多い。複合核状態の幅Γが隣り合う状態間のエネルギーに比べて小さいとき,その状態を共鳴状態という。複合核を経由する核反応過程は複合核過程と呼ばれ,統計理論で扱われる。
→核反応
執筆者:寺沢 徳雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…フェルミはまた,中性子のエネルギーがとびとびのある値にほぼ等しいときには,核反応がきわめて起こりやすいことを見いだした。この現象は共鳴現象と呼ばれているが,共鳴現象が起こる理由は,これらのエネルギーでは,入射中性子と標的である原子核とが反応の途中で一体になって,準安定で複雑な複合核を形成することにある。この複合核の概念はN.H.D.ボーアによって36年に提唱されたもので,核反応理論の重要な柱の一つとなっている。…
※「複合核」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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