改訂新版 世界大百科事典 「原子核模型」の意味・わかりやすい解説
原子核模型 (げんしかくもけい)
nuclear model
原子核の構造や性質を理解する手段として用いられる模型。模型といってもあくまで理論的なものである。原子核はほぼ陽子と中性子(総称して核子という)からできているが,原子核模型は,この核子間の相関の考え方から集団(運動)模型,独立粒子模型,クラスター模型に分類できる。
集団運動模型は核子間には強い相関があるとする立場に基づくもので,これには液滴模型,変形核模型などがある。前者は原子核の質量や体積が構成核子の数に比例し,また核子間に働く核力が短距離力であり飽和性をもつことなど,その性質が液体と似ていることから原子核を液滴で近似して取り扱うもので,N.ボーアらは,この模型を用いてウランなど重い原子核の核分裂を説明した。後者は原子核の形がどのくらい球対称からずれているかを示す原子核の電気四重極モーメントが,ある種の原子核では1~2個の核子によるものよりはるかに大きいことから,ある種の原子核は球対称から大きく変形しているとして取り扱ったものである。この模型は最初J.レインウォーターによって提出され,その後A.ボーアがB.モッテルソンの協力を得て発展させ,ボーア=モッテルソンの変形核模型と呼ばれる。また原子核が変形すればこまのような回転が予想されるが,事実ある原子核は回転エネルギー準位をもつことが知られており,変形核模型を回転(核)模型ということがある。
独立粒子模型は,核内には平均場があって,核子はその中を他の核子とは独立に自由に回転するという立場に立つもので,殻模型(シェルモデル)が代表的なものである。よく知られているように,原子内の電子は一定の軌道(殻)を回転し,一つの軌道が満員になると閉殻をつくる。閉殻のみからなる原子(希ガス)は,他の原子とは反応しにくく,その電子数は,2,10,18,36,54,86である。原子核もその陽子数または中性子数が特別な数(魔法数といい,2,8,20,28,50,82,126)をとるときには安定となる。このことから原子核の内部に核子に対する平均場が存在し,この平均場内の軌道が核子によって満員になるたび閉殻が生じ,原子核が安定になるとするのが,殻模型の考え方である。ただし,この平均場が単純な中心力場であるとすると,2,8,20以外の魔法数については説明がつかなかったが,1950年M.G.メイヤーとH.D.イェンゼンが,独立に平均場にスピン軌道力を加えることによってすべての魔法数がうまく説明できることを示した。殻模型によって原子核のスピン,磁気モーメント,β崩壊,γ崩壊がみごとに説明され,現在では殻模型は原子核の構造論の基礎になっている。
クラスター模型は核子間の局部的な相関を考えるもので,原子核は一部の核子が結びついて一つの粒子のようにふるまう部分(これをクラスターという)からなるとするものである。質量数が10以下の軽い原子核中,質量数=4のヘリウム原子核(α粒子)は特別に安定であることから,ベリリウム84Be,炭素126C,酸素168Oなどの原子核はα粒子の複合体であるという考えがあり,これをαクラスター模型という。
原子核模型には以上のような構造の模型以外に,反応に関しての模型として,原子核に核子や原子核が衝突すると,入射エネルギーがたちまち全核子に広がって複合核を形成するという複合核模型,核子と,核または二つの核間の相互作用はポテンシャルで表されるとする光学模型などがある。前者は液滴模型に,後者は殻模型に対応するものである。
→原子核
執筆者:有馬 朗人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報