磁気量としては電荷に相当する磁荷があり,電荷と同様に正負が存在する。ところが磁荷は電荷と違って単独では存在せず,磁石で見られるようにいつも正負同量の磁荷が対となって現れる。このとき,磁石の正極および負極の磁荷をm,正負の極間の距離をaとすると,大きさがmaで,負極から正極に向かうベクトル量を磁石の磁気モーメントと定義する。磁荷の性質から,磁気モーメントは磁気のもっとも基本的な量ということになる。電荷が回転運動をすると電流が閉じた曲線に沿って定常的に流れ,その電流が周囲に磁場をつくる。この磁場は磁気モーメントがつくる磁場と同じで,もとの閉曲線に沿っての定常電流は磁気モーメントと同等の効果を与え,磁気モーメントとみなすことができる。電子は電荷をもち,自転運動(スピン)をし,また軌道運動をする。これらの運動が電子の磁気モーメントを形成し,この磁気モーメント,とくにスピンに基づくものが物質の磁気的性質を担っている。強磁性の場合,この微視的な電子の磁気モーメントの向きがそろい,巨視的な磁石の磁気モーメントとして現れる。電子の磁気モーメントに比較するとその大きさは1000分の1程度であるが,原子核もそれを構成する核子に由来する磁気モーメント(核磁気モーメント)をもっている。これらの磁気モーメントの起源となる回転運動は量子力学に基づくもので,したがって磁気モーメントも量子論的なものである。回転運動は角運動量で表現されるので,電子の回転運動に基づく定常電流は角運動量を用いて表され,電子の磁気モーメントは角運動量に比例することが示される。電子の角運動をℏJ(ℏはプランクの定数hを2πで除したもの),磁気モーメントをmとすると,m=gμbJと表される。gはg因子と呼ばれ,Jがスピン角運動量の場合2で,軌道角運動量の場合1である。μbは電子の磁気モーメントの量子単位でボーア磁子と呼ばれ,μb=eℏ/2mc0.9×10⁻20erg/ガウス(emu)である(e,mはそれぞれ電子の電荷,質量,cは光の速度)。
→磁性
執筆者:吉森 昭夫
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磁気量の双極子モーメントをいう.磁石の磁気モーメントは,正負の磁極の強さをq,-qとし,両者の間隔をlとするときqlをいう.これは電気双極子モーメントに類似した定義である.しかし,磁極の存在は電荷のように実在的なものではない.そこで正確には磁気モーメントは小回路を流れる電流で定義される.すなわち,電流の強さをi,小回路に囲まれた面積をSとすると,磁気モーメントの大きさは,国際単位系(SI単位)のE-H対応では
μ0iS (μ0 は真空の透磁率),
ガウス単位系では
iS/c (cは真空中の光速度)
で,その方向はSに垂直なものとする.磁性体の磁化は単位体積当たりの磁気モーメントの和である.質量m,電荷eをもつ粒子が,スピン角運動量または軌道角運動量Jをもつときは,それに伴う磁気モーメントはガウス単位系のときは
g(e/2mc)J,
MKSAのE-H対応単位系では
gμ0(e/2m)J
である.gはg因子とよばれる数値で,その値は角運動量の性質によって決まる.とくに電子の場合は,Jがスピン角運動量を表すときはJの一方向の成分の大きさはℏ/2,またg = 2であり,したがって,磁気モーメントの値はガウス単位系では
eℏ/2mc
となる.これはボーア磁子とよばれる.一方,Jが電子の軌道角運動量であるときはg = 1である.陽子や中性子も磁気モーメントをもち,その大きさは核磁子の程度で,ボーア磁子に比べて約1/1000である.[別用語参照]磁子
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磁気能率ともいう。磁石は周りに磁場をつくるが、長さがLでその両端の磁極の強さがmと-mとであるような棒磁石が遠くの点につくる磁場の方向と強さは、棒の軸方向およびmとLとの積μ=mLとだけによって決まる。それでμを磁気モーメントという。電流の周りには磁場ができるが、円形の電流によって遠くの点につくられる磁場は、その円の中心にその面と垂直にある磁石を置いたときの磁場と同等である。したがって、環状電流も磁気モーメントをもつということができ、その大きさは電流の強さIと環の面積Sとの積すなわちISに等しい(単位のとり方によっては係数がかかる)。
磁石そのものも、それが、目に見えない小さな環状電流によるものであるとすれば、初めの磁気モーメントの定義にかわって、環状電流の磁気モーメントのほうが基本であると考えられる。磁石の中にミクロな磁気モーメントの担い手が多数あるとすれば、磁石の磁気モーメントはそれらのベクトル的な総和である。物質の単位体積当りの磁気モーメントはその物質の磁化の強さにほかならない。
電子が閉じた軌道を回っていれば、それは環状電流であり、磁気モーメントをもつことになるが、そのほかに、電子自身が自転運動を行うことにより固有の磁気モーメントをもっている。物質の磁性の根元はこれらの磁気モーメントによって説明されるべきものである。
[宮原将平・佐藤博彦]
『溝口正著『磁気と磁性 1』(1995・培風館)』▽『浜口智尋著『電子物性入門』(1999・丸善)』
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…そのため環状電流を磁気双極子と呼ぶ。電流をI,環状電流が囲む面の面積をSとするとき,積m=ISを磁気(双極子)モーメントという。ベクトルとして考えるときは,長さmをもち,環状電流が囲む面の法線nの方向を向くベクトルmを磁気モーメントという。…
※「磁気モーメント」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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