反魂香(読み)ハンゴンコウ

デジタル大辞泉 「反魂香」の意味・読み・例文・類語

はんごん‐こう〔‐カウ〕【反魂香】

それをたくと死者の魂を呼びもどして、その姿を煙の中に現すという想像上の香。中国の漢の武帝が、夫人死後、恋しさのあまり香をたいてその面影を見たという故事による。

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精選版 日本国語大辞典 「反魂香」の意味・読み・例文・類語

はんごん‐こう‥カウ【反魂香・返魂香】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 中国の漢の武帝が李夫人の死後、香をたいてその面影を見たという故事による ) 焚けば死人の魂を呼び返してその姿を煙の中に現わすことができるという、想像上の香。武帝の依頼により方術士が精製した香で、西海聚窟州にある楓に似た香木反魂樹の木の根をとり、これを釜で煮た汁をとろ火にかけて漆のように練り固めたものという。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
    1. [初出の実例]「いかなる思ひなりけん、反魂香に咽びし、煙の末の面影」(出典:宴曲・宴曲集(1296頃)三)
    2. [その他の文献]〔白居易‐李夫人詩〕
  2. [ 2 ] 謡曲
    1. [ 一 ] 鎌倉の商人何某の娘は、去年都へのぼったままの父を慕って都へいそぐ途中、尾張の宿で旅の疲れのために死ぬ。折しも同じ宿のとなりの部屋に泊まり合わせていた父がこれを知り、森の御僧と呼ばれる高僧のもとに娘の死体を運んで回向を頼む。父が僧から譲られた反魂香を焚くと娘の亡霊が現われる。廃曲。不逢森(あわでのもり)
    2. [ 二 ] 闌曲の一つ。観世流[ 一 ]のクセの部分を謡物として独立させたもの。漢王が李夫人の死をいたみ反魂香を九華帳の中に焚くと、夫人の姿が現われる。

反魂香の語誌

白居易「李夫人詩」を通して日本の文学早くから影響を受け、「源氏物語‐総角」の「人の国にありけむ香の煙ぞいと得まほしく思さるる」をはじめ、「唐物語」、謡曲の「花筐」や「あはでの森」などに見られる。さらに近世には反魂香の趣向をいれた歌舞伎けいせい浅間嶽」が大当たりをとったところから、浅間物と称される同趣向の浄瑠璃、歌舞伎などが数多く作られた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「反魂香」の意味・わかりやすい解説

反魂香
はんごんこう

焚(た)けば死人の魂を呼び返し、その生前の姿が煙の中に現れるといわれる想像上の香。返魂香ともいう。中国の漢の武帝は、李(り)夫人を失った悲しさのあまり、夫人のおもかげを求め、方術士に命じて西海聚窟(しゅうくつ)州にある香木反魂樹から名香反魂香をつくらせ、この香を薫じて夫人の魂を呼び返して再会がかなったという故事による。反魂香の原料になったといわれる反魂樹もまた想像上の樹木である。この怪異的な故事は、わが国の戯曲などによく用いられるところとなる。初め能楽、謡曲に取り入れられ、のちに近松門左衛門がこれを怨霊事(おんりょうごと)の趣向に仕立てた浄瑠璃(じょうるり)『傾城(けいせい)反魂香』(1708、大坂・竹本座初演)が大当りをとってからは、歌舞伎(かぶき)などでも代表的な趣向の一つとなった。

[棚橋正博]

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「反魂香」の解説

反魂香
(通称)
はんごんこう

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
けいせい反魂香
初演
享保4.3(大坂・嵐三右衛門座)

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デジタル大辞泉プラス 「反魂香」の解説

反魂香(はんごんこう)

古典落語の演目のひとつ。「高尾名香」「高尾の亡霊」とも。八代目三笑亭可楽が得意とした。オチは間抜オチ。主な登場人物は、長屋の衆。

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世界大百科事典(旧版)内の反魂香の言及

【反魂丹】より

…それは越中売薬の行商が配置販売方式を採用し,現物を先渡しして翌年使用済みの分だけの代金を受け取り,残品は新品と交換し,さらに補充配置するという行商方式で全国に行商圏を広げていたからである。反魂丹は死者の魂をよび返すとされた反魂香にあやかって,死(ひんし)の病者を回復させる効能があるとして,中国でつけられた薬名である。しかし,日本の反魂丹は中国のそれとは違って,《儒門事親(じゆもんじしん)》に見える妙功十一丸に近い内容の丸薬である。…

【たちぎれ線香】より

…落語。原話は《江戸嬉笑(きしよう)》(1806)所収の〈反魂香(はんごんこう)〉。代表的な上方落語で,東京では《たちきり》と称する。…

※「反魂香」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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