白居易「李夫人詩」を通して日本の文学も早くから影響を受け、「源氏物語‐総角」の「人の国にありけむ香の煙ぞいと得まほしく思さるる」をはじめ、「唐物語」、謡曲の「花筐」や「あはでの森」などに見られる。さらに近世には反魂香の趣向をいれた歌舞伎「けいせい浅間嶽」が大当たりをとったところから、浅間物と称される同趣向の浄瑠璃、歌舞伎などが数多く作られた。
焚(た)けば死人の魂を呼び返し、その生前の姿が煙の中に現れるといわれる想像上の香。返魂香ともいう。中国の漢の武帝は、李(り)夫人を失った悲しさのあまり、夫人のおもかげを求め、方術士に命じて西海聚窟(しゅうくつ)州にある香木反魂樹から名香反魂香をつくらせ、この香を薫じて夫人の魂を呼び返して再会がかなったという故事による。反魂香の原料になったといわれる反魂樹もまた想像上の樹木である。この怪異的な故事は、わが国の戯曲などによく用いられるところとなる。初め能楽、謡曲に取り入れられ、のちに近松門左衛門がこれを怨霊事(おんりょうごと)の趣向に仕立てた浄瑠璃(じょうるり)『傾城(けいせい)反魂香』(1708、大坂・竹本座初演)が大当りをとってからは、歌舞伎(かぶき)などでも代表的な趣向の一つとなった。
[棚橋正博]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…それは越中売薬の行商が配置販売方式を採用し,現物を先渡しして翌年使用済みの分だけの代金を受け取り,残品は新品と交換し,さらに補充配置するという行商方式で全国に行商圏を広げていたからである。反魂丹は死者の魂をよび返すとされた反魂香にあやかって,死(ひんし)の病者を回復させる効能があるとして,中国でつけられた薬名である。しかし,日本の反魂丹は中国のそれとは違って,《儒門事親(じゆもんじしん)》に見える妙功十一丸に近い内容の丸薬である。…
…落語。原話は《江戸嬉笑(きしよう)》(1806)所収の〈反魂香(はんごんこう)〉。代表的な上方落語で,東京では《たちきり》と称する。…
※「反魂香」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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