能の用語。蘭曲,乱曲とも書き,流派によって曲舞(くせまい)ともいう。古くは祝言,幽玄,恋慕,哀傷とともに五音曲の一つを示していた。五音曲は謡の分類用語で,他の四つが情趣の区別による分類であるのに対し,闌曲はそれらを超越した自由な謡い方を意味した。のちに,そうした謡いどころのある曲のうち,上演のまれな曲だけを集めるようになり,それらを闌曲と呼ぶようになった。流派によって曲舞と呼ぶのは,これらの曲がサシとクセから成るものが多いためである。謡い物として各流派に伝承されてきたために,古いフシが残っていたり,細部の技巧が発達したりしている面がある。闌曲は独吟(どくぎん)が原則だが,観世流小鼓には,闌曲の譜としてシテ方観世流の相手をする一調(いつちよう)の譜があるという。現行の闌曲は62曲で,17曲は現在も能として上演されている曲の一節(《花筐(はながたみ)》など)であり,45曲は《松浦物狂》や《横山》《舞車》のように,能としては上演されなくなった曲か,《東国下》や《西国下》のように最初から謡い物として作られた曲である。いずれも,最高の芸位と技巧を必要とする謡い物である。
執筆者:松本 雍
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