能の曲名。四番目物。狂女物。世阿弥作だが,クセは観阿弥作曲の《李夫人の曲舞(くせまい)》。シテは照日前(てるひのまえ)(狂女)。越前の味真野(あじまの)に住む照日前(前ジテ)のもとへ,大迹部(おおあとべ)皇子の使(ワキヅレ)が来て,皇子の文と花籠を届ける。皇子は皇位の継承者に決まって都に向かったのである。即位をして大和の玉穂の宮を皇居と定めた継体天皇(子方)は,警護の官人(ワキ)たちに守られて紅葉の御遊(ぎよゆう)に出かける。その道筋に,侍女(ツレ)に花籠を持たせた狂女(後ジテ)が来かかる(〈カケリ等〉)。見苦しいと言って官人が籠を打ち落とすと,狂女はこれは君の形見だと敬い,越前での皇子の日常を物語って懐かしがる(〈クルイ〉)。狂女はさらに漢の武帝と李夫人のこまやかな情愛を描いた曲舞を舞って見せる(〈クセ〉)。やがて天皇がそれと気づき,正気に戻った照日前を伴って皇居に帰るのだった。供を連れての物狂いは,現行演目ではこの曲だけである。クセは既成の曲舞をそのまま取りこんだため,前後と異質な堅い色彩となっているが,それが独自性を強め,結果的に成功している。
執筆者:横道 万里雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
能の曲目。四番目物、狂女物の大作。五流現行曲。世阿弥(ぜあみ)作。『日本書紀』に材をとる。越前(えちぜん)に住む大迹辺皇子(おおあとべのおうじ)(後の継体(けいたい)天皇)の愛人照日前(てるひのまえ)(前シテ)は、即位のため都に上る皇子から手紙と形見の花籠(はなかご)を贈られて悲しむ。侍女(ツレ)を伴い、狂女の姿となった照日(後シテ)は都に上り、天皇(子方)の紅葉の行幸の行列を遮り、中国の皇帝の愛の物語(李夫人(りふじん)の曲舞(くせまい)。観阿弥(かんあみ)作曲)を舞って、天皇との縁を取り戻し、伴われてともに都に帰る。観世流には、のちに彼女が女御(にょうご)となる結末が語られる「安閑留(あんかんどめ)(女御留)」という演出があるが、これが原作という。
[増田正造]
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